生成AIをモノづくり業務にどう取り込むか ハノーバーメッセ2024に見る具体策製造業の生成AI活用

生成AIの活用が広がる中、製造業でもモノづくり業務の中にいかに生成AIを取り込むかに注目が集まっている。日本マイクロソフトは、ハノーバーメッセ2024での最新事例などから生成AIの活用方法などを訴えるセミナー「AIが加速させる インダストリー トランスフォーメーション」を開催した。

» 2024年07月24日 10時00分 公開
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 生成AI(人工知能)によってあらゆる業務が大きく変化しようとする中、製造業においてもモノづくりに直接関わる領域でどのように活用するかに関心が集まっている。日本マイクロソフトは2024年6月12日、製造業を対象にセミナー「AIが加速させる インダストリー トランスフォーメーション」を開催。世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE)2024」(2024年4月22〜26日)に登場した最新の生成AI技術やトレンドを振り返りつつ、設計や製造などのモノづくり業務における生成AIの活用事例や活用についての考え方、具体的なツールや導入方法を紹介した。

生成AIの進化に伴い、人がやるべき仕事の再定義が必要

photo アルファコンパス 代表の福本勲氏

 ハノーバーメッセはインダストリー4.0が最初に発表された展示会として有名で、現在でも産業DX(デジタルトランスフォーメーション)の新たなトレンドの発信地として注目されている。ハノーバーメッセ2024で見えたポイントとして、アルファコンパス 代表の福本勲氏は、生成AIを中心とした「AI&マシンラーニング」と企業間データ連携を推進する「インダストリー4.0/Manufacturing-X」を強調した。

 特にManufacturing-Xは、自動車産業で先行している複数企業のデータ連携基盤「Catena-X」の動きをベースに、その対象範囲を製造業セクター横断で広げるプロジェクトとして注目されており、幾つかのサブプロジェクトが展開される予定だ。工場の課題を解決する「Factory-X」、航空機製造業界に特化した「Aerospace-X」など、業界ごと、階層ごとでデータ連携できる仕組みの構築が進んでおり、ハノーバーメッセでも関心を集めていたという。

 「社会課題を解決するために、業界をまたいだプラットフォームやエコシステムの具体化が進んでいます。企業の枠組みを越えたデータ連携ができる基盤が稼働し始め、業種別・階層別に細分化してより効果的にデータを活用する動きも進んでいます。そこでやりとりされる莫大(ばくだい)なデータを、生成AIなどを活用して産業用途で価値に転換する例なども示されていました」と福本氏は語る。

 マイクロソフトコーポレーション(マイクロソフト)、AVEVA、EPLAN、シーメンス、シュナイダーエレクトリック、ダッソー・システムズ、ベッコフオートメーションなどの事例を紹介。「ロボットや制御機器のプログラミングに活用するなど、産業領域でどうやって使っていくのかについてさまざまなアイデアが形にされています。“人でなければできない業務は何か”をあらためて考え直すことが求められています」(福本氏)

産業向けのCopilotがあらゆる「インタフェース」に

photo 日本マイクロソフト インダストリアル&製造事業本部 製造ソリューション担当部長の鈴木靖隆氏

 マイクロソフトは、生成AIを業務アプリケーションに組み込んだ「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)の活用をハノーバーメッセで訴求した。「生成AIによるオペレーション改革」「製造データ活用のためのデータサービス」「製造業特化のパートナーエコシステム」を訴え、多くの有力パートナーと共に設計/開発から保守までのバリューチェーン全体を通じた体験型の展示を行った。

 日本マイクロソフト インダストリアル&製造事業本部 製造ソリューション担当部長の鈴木靖隆氏は「生成AIの本質的な価値は、人間が自然言語で入力するだけでデータやコンピュータのロジックを作成できることです。生成AIが世界中の知識にアクセスするのに役立つ、新しい“ユーザーインタフェース”になると考えています」と訴える。

photo シュナイダーエレクトリック インダストリアルオートメーション事業部 商品企画部 部長の川田学氏

 マイクロソフトブースにパートナーの一社として出展したのがシュナイダーエレクトリックだ。シュナイダーエレクトリック インダストリアルオートメーション事業部 商品企画部 部長の川田学氏がセミナーに登壇し、ハノーバーメッセに出展した開発中の「Automation Copilot」を紹介した。Automation Copilotは、自然言語でPLCなどの制御プログラムの開発を支援する。コードを解析してテスト仕様書を生成したりモーションなどの制御パラメーターを生成したりできる。

 川田氏は産業制御領域におけるプログラム開発の課題として、複雑化するシステムによる「膨大な開発工数」、慢性的な制御エンジニアの不足とベテランの退職による「ソフトウェア人材不足」、メーカーごとに独自の操作方法やライブラリがある「習熟の難しさ」の3点を挙げる。「生成AIによって自然言語でプログラミングを自動化することで、開発工数を最大で30%削減できます」(川田氏)。Automation Copilotは2025年初頭に提供予定で、最終的には現在開発中のソフトウェア「Automation Manager」の一機能としてクラウドとも連携して多人数開発が行える環境を提供する計画だという。

photo Automation Managerによる開発環境の変化[クリックで拡大] 提供:シュナイダーエレクトリック

データ統合をサポートするマイクロソフトのソリューション

photo マイクロソフト 製造・モビリティ インダストリー インダストリーアドバイザーの濱口猛智氏

 生成AIをモノづくり現場で活用するためには、「データの統合」「データのコンテキスト化」「データの民主化」などが必要だ。マイクロソフト 製造・モビリティ インダストリー インダストリーアドバイザーの濱口猛智氏は、2024年4月に発表した「Manufacturing Data Solutions」(MDS)と「Azure AI」の工場オペレーション向け「Copilot Template for Factory Operations」によって製造現場でのAIによる新しいデータ活用の手法が得られたと訴える。

 マイクロソフトはAzure IoT Operationsなどを用いて、よりオープンな仕組で、製造現場のデータを統合して相互運用を可能にする。MES(製造実行システム)やERP(企業資源計画)などの記録システム、センサー、PLC、FAアプリケーションによる現場データなど、異なるソースからのデータの収集、整理、蓄積が可能だ。集めたデータはその活用のためにMicrosoft Fabricの「One Lake」に統合する。MDSはMicrosoft Fabric上で企業システムと制御システムの統合モデルの国際標準である「ISA-95オントロジーモデル」に基づき、データをコンテキスト化し、さまざまな製造現場のデータを製造ナレッジグラフ化する。

 Copilot Template for Factory Operationは、MDSによって整理されたデータを活用するためのツールで、MDSで構築された製造ナレッジグラフを通じて、自然言語でAIからさまざまなデータを取得できる。これにより、工場業務の問題解決の迅速化と運用効率の向上が見込める。

 濱口氏は「現在、多くの製造現場で利用されているダッシュボードなどのアプリケーションは、その目的が限定されていることが多く、一部のデータにしかアクセスできません。Copilot Template for Factory Operationは問題が起きた際に『ここはどうなっているの』と聞けば必要なデータを基に答えが返ってきます。AIが壁打ち相手やアドバイザーになってくれるため、働き方が大きく変わります」と訴える。マイクロソフトはMDSとCopilot Template for Factory Operationを併せて「Data Manager for Manufacturing」として提供することで、製造業の生成AI活用を推進する方針だ。

photo Data Manager for Manufacturingが提供するもの[クリックで拡大] 提供:マイクロソフト

AIに話し掛けるだけで現場判断に必要なデータを入手

photo アバナード Industry Xチーム マネージャーの鈴木聡氏

 これらを活用したソリューションをいち早くユーザーに提供しているのが、マイクロソフトのパートナー企業であるアバナードだ。セミナーでは、アバナード Industry Xチーム マネージャーの鈴木聡氏が「Avanade Manufacturing Copilot」を紹介した。

 Avanade Manufacturing Copilotは、マイクロソフトの「Microsoft Cloud for Manufacturing」を拡張したソリューションだ。製造業で使われる用途に絞り込んでデータやコミュニケーションの仕組みなどを組み込み、自然言語で「尋ねる」ことで必要なデータや原因分析、対策などを示せる。ある製造ラインの総合設備効率(OEE)が下がった場合に「OEEが下がった理由を教えてください」と質問するだけで、パフォーマンスが下がったマシンの特定や履歴データに基づく分析結果が表示される。

 アバナードの鈴木氏は「データによる判断が簡単にできれば、問題解決の迅速化や人による違いを抑制できます。作業効率や品質向上などに貢献する他、時間外労働の減少など、労働者の生活向上の効果も生み出せます」と述べる。生産スケジューリングの効率化、品質管理、設備保全、プロセスの最適化、廃棄物の削減、シフトや引き継ぎ稼働の調整などにも利用可能だ。

 既にAvanade Manufacturing Copilotはパイロット版としての導入事例もあり、成果を生み出している。ドイツのシェフラーは製造現場での予知保全用機械データの取得を簡素化することで、工場マシンのオペレーターのサポートにつなげている。ブリヂストンは生産の中断や歩留まりの低下などの生産ロスの原因を特定し、OEEや歩留まりを向上させるために活用しているという。アバナードの鈴木氏は「こうした仕組みは既にしっかりと効果を生み出しています。生成AIをきっかけとしてDXを支援します」と語る。

photo 自然言語での工場データ活用[クリックで拡大] 提供:アバナード

 熟練技術者の引退などで人材不足に悩む製造業では、それをカバーする意味でも生成AIへの期待が高まっている。マイクロソフトはいち早く業務レベルでの生成AI活用に取り組み、パートナーとの連携などによって簡単に使いこなせる仕組みを整えつつある。モノづくり業務での生成AIの活用を考える企業は一度相談してみてはいかがだろうか。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年8月8日