製造業における生成AIへの関心の高まりを受け、日本マイクロソフトは製造業を対象にしたセミナー「Leading the Era of AI 〜AI時代のビジネスの未来を導く〜」を開催した。生成AIは製造業の現場に今後どのような変化をもたらし、どのようなインパクトを与えるのか。セミナーの様子をレポートする。
ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)があらゆる産業や業務にインパクトをもたらし、「DX(デジタルトランスフォーメーション)からAX(AIトランスフォーメーション)へ」といわれるほどAI活用は企業競争力を左右するものになりつつある。一方で「AIをどのように活用すれば効果的なのか」「生成AIにセキュリティ面の問題はあるのか」など、不安を感じる製造業が多いのも事実だ。
これらを背景に、日本マイクロソフトは2023年11月30日、製造業を対象にしたセミナー「Leading the Era of AI 〜AI時代のビジネスの未来を導く〜」を開催した。同セミナーでは製造業における最新のAI活用についての解説や顧客の事例紹介などが行われた。本稿では軸となる3つの講演内容を中心にセミナーの様子をレポートする。
まず製造業におけるAIの活用動向について、日本マイクロソフト インダストリアル&製造事業本部 製造ソリューション担当部長の鈴木靖隆氏が「製造業で進むAI実装:機械学習モデルの業務活用」をテーマに説明した。
鈴木氏は2026年までに製造業向けのAI市場が25兆円規模になるというグローバルの調査結果などを紹介し、今後ますます多くの製造業でAIサービスの採用が進んでいくことを示唆した。こうした中でMicrosoft(マイクロソフト)はクラウド基盤である「Microsoft Azure」(以下、Azure)をベースに、AIを自由にサービスとして活用できる「Azure AI」を展開している。Azure AIには、シナリオベースのAIサービス、少ない労力でカスタマイズできるAIサービス、機械学習モデルから構築できるものなど、ビジネスユーザーから開発者、データサイエンティストまで、あらゆる立場のニーズに応えたソリューションが用意されている。「思い描くAIソリューションをユーザー自身が構築できるツールを提供することがAzure AIのコンセプトです」(鈴木氏)
製造業はこれらを生かしてAIをどのような業務に活用しているのだろうか。鈴木氏は「Azure AIのユースケースとしては『より俊敏な工場の構築』『強靭(きょうじん)なサプライチェーンの構築』『ワークフォースの変革』の3つが中心です」と説明する。特に工場においては「予知保全」と「品質検査の自動化」などでの利用が進んでおり、「製造業のAI案件の29%が予防保全に関わる案件です」とした。
鈴木氏は「Azure AIサービスは成熟してきており、製造業の典型的な課題に対するAI活用のユースケースがそろってきています。既知のデータがある場合はそのデータを学習データとしてAIを用いた予知保全を行い、データがそろっていなければ“通常と違う”を検出する異常検知を行うなど、Azure AIサービスの組み合わせで主要な作業をカバーできるようになっています」という。
今後は「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)によってさまざまな業務アプリケーションに生成AIが組み込まれ、意識せずにAIを活用できる状況が生まれてくる。「Copilotが入ってくれば、Azure AIサービスで構築できた価値をより簡単に意識せずに使える環境が生まれます」と鈴木氏は今後の方向性を訴えた。
このCopilotを中心にAXを推進した後の将来像について説明したのが、日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション技術本部 本部長の今野拓哉氏だ。今野氏は「AI革命:製造業における生成AIの未来像」をテーマに、今後マイクロソフト製品に実装されるAI技術の活用方法について講演した。
今野氏は生成AIを「デジタル化の圧倒的な促進と民主化」に寄与するものだと位置付ける。「まずはデジタライゼーションによって紙の記録が電子化され、多くの情報がデジタル化されました。それをDXで業務変革につなげる動きが進んでいます。これらでより多くのデータが生み出されるようになり、AIの学習に十分なデータがそろう領域が増えてきました。そこでAIによる業務革新が本格的に進もうとしています。生成AIはこれをさらに加速させるものです」と今野氏は語った。
マイクロソフトは、Copilotによって業務ツールに生成AIを組み込む計画だ。Copilotは大規模言語モデル(LLM)を各種業務アプリケーションに組み込み、業務に直結する作業を生成AIによって抜本的に改善できるようにしたツール群だ。ちなみにCopilotは「副操縦士」という意味で、あくまでも人の活動をAIが支えることを示している。「われわれは以前からデジタルフィードバックループによってデータを循環させる仕組みを訴えてきました。生成AIを組み合わせることでデータから業務価値へのつながりを円滑にできます」と今野氏は強調する。
生成AIを活用するためには「まず狭い範囲で使い、業務に当てはまることを理解した上でいろいろなプラットフォームとして採用する流れが重要です」と、生成AI活用の進め方についての考えを述べた。「まずはCopilotを活用して業務に生かすことで何が変わるのかを確認することが成果への近道だと考えます。Copilotの範囲だけでも製造業の業務には多くの改善が生まれるでしょう」(今野氏)
Copilotは製造業において特に営業部門、カスタマーサービス、保守部門での活用が見込まれるという。セミナーでは、営業部門においてOutlookに組み込まれた「Sales Copilot」でCRM(顧客管理システム)のデータを参照してメールの文面を作成する様子をデモンストレーションした。
事例紹介セッションでは、東京電力と中部電力が共同出資して設立したJERAでのAI活用事例が紹介された。JERAのO&Mエンジニアリング戦略統括部 デジタルパワープラント推進部 部長の亀井宏映氏が「JERA-DPPにおける生成AIの取り組みについて」というテーマで、デジタル発電所(DPP:Digital Power Plant)実現のために同社が開発したソリューションや生成AI活用の現状を紹介した。
JERAは2050年に向けて「CO2が出ない火を作る」をキーワードに新たな設備作りに取り組んでいる。少子高齢化による人手不足も課題であることから、これまでに蓄積したO&M(Operation&Maintenance)関連のノウハウとデータをデジタル化し、さらにAIも投入して「JERA-DPP」と呼ぶ独自のソリューションを構築しようとしている。
JERA-DPPは、O&Mのノウハウを基に自社で開発したアプリケーションを組み合わせてパッケージにした「DPPパッケージ」と、国内外の発電所の予兆監視やサポートを行う「Global-Data Analyzing Center」(G-DAC)を柱としている。DPPパッケージは熟練技術者の知見やノウハウをデジタル技術に置き換えたものであり、AIを活用することで予兆検知、性能管理にとどまらず、不具合の分析から再発防止策まで一貫したソリューションサービスを提供する。
2023年7月に新設されたG-DACは、国内外64ユニットの発電設備をAIも活用しつつリアルタイムに監視している。JERAのエンジニアと世界中の顧客が仮想空間(メタバース)で課題を解決できる共創空間をマイクロソフトと共同で構築しており、メタバース内のモニターで発電所の設備のリアルタイムデータなどを確認できる。セミナーではメタバースのデモ映像も披露され、自動翻訳機能によって言語の壁を越えてエンジニア同士がコミュニケーションする様子も紹介された。
同社は生成AIを活用して「Enterprise Knowledge Advisor」(EKA)を開発しており、発電所でトラブルが発生した際はJERAが長年蓄積してきた発電所運営のノウハウや過去のトラブル事例などから解決策を提示する。亀井氏は「トラブル時は瞬時に発電の出力変更や停止を判断する必要があります。そのような状況においてEKAはわれわれの知見を素早く引き出すことができ、現場で役立っています」と説明した。
今後について亀井氏は「われわれのユーザー技術とマイクロソフトの最新技術を組み合わせて、さらなるCO2削減に取り組んでいきます。また、現場のエンジニアが減少している現状を、デジタルの力で改善するアプリケーションを開発したいと思います」と展望を語った。
この他、日本マイクロソフト 政策渉外・法務本部 業務執行役員 法務部長の小川綾氏による「『責任あるAI』への取り組み」やアクロクエストテクノロジー シニアテクニカルアーキテクトの村田賢一郎氏による「自社データを用いた生成AI活用の実験ノウハウ」、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 製造・流通統括サービス事業部 先進ビジネスの田中啓朗氏による「AIが変える製造業の世界」など、AIに関するさまざまな切り口での講演が行われた。
AIによる業務変革の成否は今後、企業競争力に直結するとみられる。少しでも気になるテーマがあったなら、オンデマンド配信も行われているのでチェックしてみてはいかがだろうか。
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