マイクロソフトは世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ2024」に出展し、MRデバイスや生成AI機能などを活用した新たなモノづくりの姿を紹介した。先進デジタル技術によって製造業はどう変わるのだろうか。
先進技術を駆使した製造業の将来像はどのような姿になるのだろうか――。
米国Microsoft(マイクロソフト)は世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE)2024」(ドイツ・ハノーバー/2024年4月22〜26日)に出展し、複合現実(MR)デバイスや生成AI(人工知能)機能などを活用した新たなモノづくりを紹介した。
ハノーバーメッセは、毎年開催されているオートメーションやデジタル生産システム、エネルギーシステムなどの産業技術の総合展示会だ。2024年は4000以上の出展社が集まり、150カ国から13万人の来場者があった。2011年にこの会場で「インダストリー4.0」が発表されて以降、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)についての新たなトレンド発信の場として注目されている。
マイクロソフトも毎年先進技術を活用した製造業の新たな姿を描き続けている。ハノーバーメッセ2024では、マイクロソフトが発表した新技術を中心とした製造業の将来像を「Microsoft Industrial Transformation」として出展した。さらに、デジタル技術によって実現する4つのテーマとして「設計とエンジニアリングにおけるイノベーション(Unlock Innovation in Design & Engineering)」「インテリジェントファクトリー(Enable Intelligent Factories)」「レジリエンスと持続可能性を持ったオペレーション(Create Resilient & Sustainable Operations)」「AIによる従業員の生産性向上(Enhance Employee Productivity with AI)」を挙げ、これらのコンセプトに沿った技術展示やパートナー展示を39のショーケースとして披露した。
Microsoft Industrial Transformationでは、2024年4月に発表したデータ統合/分析プラットフォーム「Microsoft Fabric」の製造データソリューションと、「Azure AI」の工場オペレーション向け「Microsoft Copilot」テンプレートのデモなどを中心に紹介した。
Microsoft Fabricの製造データソリューションは、製造現場で流通しているサイロ化されたデータを統合し、相互運用可能にするものだ。センサー、製造実行システム(MES)、企業資源計画(ERP)のような記録システム、FAアプリケーションからの現場データなど、さまざまなソースからデータを取得してデータレイクの「One Lake」に統合する。さらに、国際標準「ISA-95」情報モデルに基づいてシームレスな相互運用性を実現する。
Microsoft Fabricによって整理されたデータを活用するための強力な支援ツールが、Azure AI 工場オペレーション向けCopilotテンプレートだ。Microsoft Copilotは業務アプリケーションに生成AIなどを含むAI支援機能を組み込んだもので、業務に直結した形で生成AIの機能を活用できることが特徴だ。例えば、生産監督者が会話形式で質問するだけで品質上の問題や稼働上の問題などを特定することなども可能になる。
会場ではこれらの2つのソリューションを組み合わせたデモを披露。2つのロボットアームとマグネットレーン、ビジョンシステム、オートメーションハードウェアコントローラーやPLC、ネットワークスイッチなどを用いて、ロボットによる組み立てや検査工程などをイメージしたラインでデータを活用する様子を示した。
得たデータについては「Azure Arc」によってエッジとクラウド間で通信する。国際標準規格「OPC Unified Architecture」でクラウドに送信するタグを設定することでロボットセルのデータをリモートで分析でき、稼働に関する各情報がダッシュボードに反映される。3Dシミュレーションソフトで構築したロボットセルに実際のロボットセルが取得しているIoTデータを反映し、リアルタイムで確認することも可能だ。
日本マイクロソフト インダストリアル&製造事業本部 製造ソリューション担当部長の鈴木靖隆氏は「現場のフロントラインのデータをどう取得するかが重要なポイントです。しかし、製造ラインのデータは機械メーカーが個別に設定したプロトコルやデータ形式であったり、ラインビルダーが設定したシステムであったりと、多種多様なデータがさまざまな形で残されています。生成AIを活用するにしても、基盤となるデータが重要です。新技術によって、そうした状況を解決できます」と語った。
4つのテーマのうち、「インテリジェントファクトリー」や「AIによる従業員の生産性向上」に関連するソリューションとして新たにマイクロソフトが紹介したのが、Copilotを統合した「Microsoft Dynamics 365 Guides」だ。Microsoft Dynamics 365 Guidesは、MRデバイスの「Microsoft HoloLens」を用いて作業マニュアルなどを3D映像で表示したり現実世界のオブジェクトに3Dコンテンツを重ね合わせてガイドしたりすることで、製造現場の円滑な作業を支援するソリューションだ。トヨタ自動車をはじめ、既に多くの企業が活用している。
Microsoft Dynamics 365 GuidesにCopilotを統合することで、作業者の要望や質問に対してマニュアルやベテランの知見を基に状況に応じた答えを生成し、テキストや音声で返答できる。従来は遠隔からベテラン作業者が作業指示書などを表示し、口頭で指示しながら補助していたが、システムのみで対応できるようになる。会場では、エンジンのメンテナンスやBMWのワイヤハーネスの組み立てなどのデモを行った。このソリューションは先行トライアルとして既に提供しており、日本でも一部の企業が試用しているという。
ショーケースでは、有力パートナーとの共同出展を多数行った。「設計とエンジニアリングにおけるイノベーション」では、ドイツのSiemens(シーメンス)と共同展示した。マイクロソフトとシーメンスは2023年10月に協業を発表し、生成AIを搭載した産業エンジニアリングソフトウェア製品「Siemens Industrial Copilot」を共同開発している。今回は、Copilotを実装したサンプルとして設計とオペレーションの領域についてのデモを披露した。
デモでは、パートナーであるドイツのコネクターメーカーHARTINGと協力し、自然言語でHARTING製コネクターを特定の要件に適応させたカスタマイズ品の設計データを出力する様子を紹介した。シーメンスは3D CAD「NX」やPLMソフトウェア「Teamcenter」などを展開して設計データを管理している。その設計データを生かし、新しい仕様を自然言語で入力するだけでカスタマイズされたコネクターの設計データを生成するというものだ。
「インテリジェントファクトリー」では、ドイツのロボットメーカーであるKUKAとの協業で、ロボット制御プログラムの作成を生成AIで支援する仕組みを紹介した。ロボットを使用するには、作業内容に合わせて制御プログラムを作成する必要があり、毎回人手を要する点がロボット普及の障壁になっている。そこで、Azure OpenAI Servicesをベースに、自然言語でKUKAロボット言語(KRL)を生成してロボットに反映する仕組みを開発した。「KRLのパレット積みアプリケーションの例を挙げて」と入力すると、短時間で制御プログラムが生成される。
フランスのSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)との協業では、Copilotを活用してPLC用の制御プログラムを自動生成するデモを行った。6つのユースケースに対応し、プロンプトを入力することでコードを生成できる。生成されたコードと併せて参照したコードも表示し、どのライブラリを使ったのかを示すことで人間によるダブルチェックができるようにしている。「実際の製造ラインでは、さまざまなソリューションを組み合わせて使用することになります。これらをどうやってインテグレートするのかなども含めてパートナーと議論を深めていきます」(鈴木氏)
生成AIをはじめ、製造業でもモノづくりにおける各工程は大きな変化に直面している。ハノーバーメッセ2024での最新トレンドなども踏まえて新たな動きを取り込みたい場合は、マイクロソフトに話を聞いてみるとよいのではないだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年6月5日