NEO新城工場の立ち上げと同時にスマートファクトリーを実現、OSG流の大胆なDX推進工場見学レポート〜ものづくり最前線〜(4/4 ページ)

» 2024年06月24日 07時00分 公開
[Koto Online編集部Koto Online]
Koto Online
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現場の意見をくみ取ったツールを作ること

田口 大胆な取り組みでしたが、周囲の理解はいかがでしたか。

桝田 一般的には既設の工場にDXを展開する流れかと思いますが、NEO新城工場の場合は、新しい建屋を作るプロジェクトと並行してDXを展開していきましたので、今までの概念から脱却して新しいことを始める、つまり職場環境を大きく変えるチャンスがありました。その施策として「Zero-One Office」や「Zero-One Cafeteria」を作り、社員の皆さんの意識改革につなげて行く流れができたのはとてもラッキーでした。

「Zero-One Office」[クリックで拡大]出所:Koto Online

 「Zero-One Office」は社員が個々の席を持つことなく、働く場所を自由に選べるフリーアドレスのオフィスで、1人で集中できる席など、さまざまなスペースを設けています。シャッフルされることで今まで関りがなかったもの同士で交流が生まれ、所属部署の壁を越えた横のつながりを生んでいます。

「Zero-One Cafeteria」[クリックで拡大]出所:Koto Online

 「Zero-One Cafeteria」に関しては、昔ながらの工場の食堂を象徴する長テーブルに丸椅子が並ぶスタイルから大きく変え、メニューも12月なら唐揚げ食べ放題など、毎月さまざまな御褒美ランチイベントを開催しています。リーズナブルな価格にしているので反響が良く、楽しみにしていただいているようです。フリードリンクやサラダバー、焼き立てのパン、スイーツなどメニューも豊富で、従業員の満足度向上に一役買っていると思います。

田口 働く環境を大きく改善することで、皆さんの意識を前向きにするのが狙いでしょうか。

桝田 そういった考えもありますし、NEO新城工場はDXだけでなく複合化・省人化・無人化などさまざまな取り組みをスピード感を持って実践する工場を目指しておりますので、そこで働く皆さんにも新しいことにポジティブにチャレンジする意識が育って欲しいと思っています。私も部長になり4年目を迎えましたが、多くの方のご協力のおかげで以前と比べるとかなり雰囲気が変わってきたと実感できていますし、今後もさらに進化させていくのが私の役割だと思っています。

 毎年新しいチャレンジを継続していますが、その取り組みのアイデアやヒントは製造現場で働く社員の皆さんとの会話の中から生まれたものも多くありますので、いただいたアイデアを忘れないように携帯にメモして形に残しています。単にDXを推進するだけではなく、社員の皆さんからいただいた意見を具現化して実践すること、そして「あったら良いな!が形になった」を積み重ねることで信頼関係が構築され、結果的にDXが加速し大きな成功要因になっているように感じます。

 PowerBIの各ツールも一方的に作って使ってもらうのではなく、実際に使ってお仕事をされる現場の方々の意見をくみ取ってシンプルスマートにしないと結局は陳腐化してしまう危険性があります。時間はかかりますが、綿密に打ち合わせを重ねてより良いものを作ることに挑戦し続け、最終的には他の工場への横展開も行うという意味で、NEO新城工場はDXのマザー工場としての役割も担っています。

田口 非常に大きな取り組みだったからこそ、周囲からの反響も大きかったと思います。

桝田 愛知県の大村知事にも工場へお越しいただいたり、モノづくり日本会議中部地区研究会 特別シンポジウムにて「現場力を後押しするDX化」と題して、NEO新城工場での活動や弊社グループ会社でのDX事例も踏まえ、企業規模に関わらずDX成功の鍵についてお話しする機会もいただきました。

田口 DXを定着させるポイントについてもお聞かせください。

桝田 1つは、現場の意見をくみ取ってシンプルかつスマートなツールを開発することです。難しいものは必ず敬遠されるので、使いやすくモニターを見てすぐさま状況判断ができるようなものが理想的です。また、DXなどの新しい取り組みをする際はよく言われる20:60:20の法則が付いて回ります。チャレンジ精神旺盛な20%の方はいろいろと自発的に進んでいただけますが、中間の60%の方々に「まずはやってみようじゃないか!」と前向きに取り組んでいただける仕掛けを講じることが大切だと思います。

 また、デジタル機器は導入するだけでなく、それをしっかりと理解して使いこなしていただくことがとても重要です。ただ見えているだけではダメで、関係者が使いこなせるよう教育しなければなりません。さらに、この教育も大人数を集めた研修ではなく、時間はかかりますが5人グループで8回実施するなど、少人数で行う方が理解度も高く効果的だと思います。

 使いこなせるようになると同時にデータを分析して結果につなげるスキルも大切となってきます。しっかりと理解して日々の業務を積み重ねていくと、「こんなのあったら良いな!」と新しい切り口でデータを分析などの新たなアイデアが生まれ、それをまた見える化することで深化が加速する流れになります。

 DXを進めていくと、予期せぬ問題が勃発するなどはしごを外されるような事態が起きることがあります。そのような状況下でも、関係者が問題を他人ごととせず自分事として腹をくくり向き合って取組む姿勢を持つこと。さらに最後まで諦めずに挑戦し続けた後に、達成感を共有することで、一体感が生まれ次なる挑戦につながるプラスの循環が生まれてきます。そこに必要不可欠なのはコミュニケーションであり、NEO新城工場では各部署の皆さんから絶大な協力をいただけたことは本当に大きかったと思いますし、さらにはデジタル推進チームを工場直下に設置し、寄り添い型でスピード感のある対応ができたことも大きな効果につながったと思います。

 現場への周知という点では、毎月月初に30分程度の月次朝礼の時間を使って、われわれ製造業を取り巻く環境の変化の例として2025年の製造業の壁や、DXを進めないとどんな未来が待っているか生の声で伝え、取り組みの意義や効果について理解を深めていただいています。

 納期と言う切り口で言えば、10年前と今とではお客さまの納期に対する考え方が大きく変化しており、例えばAmazonは指定した納期に必ずすぐ届くから便利で利用するのであって、製造業も絶対に約束した納期でお届けするモノづくりをしないとお客さまから選んでいただけなくなるなど、納期遅れの引き起こす悪影響などを身近な話からつなげていくと、皆さんに重要性を理解してもらいやすいです。初回回答納期順守率の改善など取り組みが確実に効果を示したときには、効果をしっかりと説明するとともに、感謝の言葉を伝えることで達成感を共有し次なる挑戦の原動力になると思います。

田口 Koto Onlineではいろいろな企業にインタビューをしてきましたが、DXに成功している方たちに共通しているのは、経営や現場、マーケットとの距離が近いということ。御社の場合、とりわけ経営層と現場との関係性が良好であると感じました。

桝田 実際に構想を始めたのが2020年6月からで、2022年半ばに今の形になりました。DXは終わりなき挑戦ですし、現在はデジタライゼーションに取り組んでいるところです。DXの最終形はデジタルトランスフォーメーションであり競争優位性を見いだし、新たな価値を生み出すことで、この先まだまだやるべきことやりたいことはたくさんあります。「できると信じるかできないと信じるか、結果は全てその通りになる」という名言もありますが、私はOSGの企業文化であれば必ずできると信じて、この先も達成感を原動力としてポジティブ思考で進んでいきたいと思っています。

田口 さらなる進化を期待しています。本日はありがとうございました。

桝田 典宏氏 オーエスジー 第2製造部 部長

1997年 静大工学部 精密機械工学科卒業 日本電信電話入社
オーエスジー中途入社 第四製造部設計課へ配属【ドリル設計/新製品開発業務に従事】
2004年 デザインセンター穴加工グループ穴あけ開発チームへ異動【ドリル新製品開発に従事】
2005年 トヨタ自動車エンジン生技部へ出向【エンジン生産の原価低減活動に従事】
2007年 デザインセンター開発グループ穴あけ開発チーム 係長就任【ドリル/タップ新製品開発に従事】
2009年 海外現地法人 OSGUSA 出向 Engineering Manager就任【セールスエンジニアとして営業の技術サポート】
2013年 OSGUSA Vice President 就任【エンジニアリング/マーケティング担当】
2019年 日本へ本帰国 第二製造部 新城工場スマートファクトリー実証室 室長就任【NEO新城工場立上げプロジェクトけん引】
2020年 NEO新城工場 部長就任【達成感を原動力とし、0から1を産み出すNEO新城Zero-One Factoryにて現場力を後押しするDX化推進】

田口 紀成氏 コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO 兼 マーケティング本部長

2002年、明治大学大学院理工学研究科修了後、インクス入社。自動車部品製造、金属加工業向けの3D CAD/CAMシステム、自律型エージェントシステムの開発などに従事。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru(オリヅル)」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務をけん引。2014年より理化学研究所客員研究員を兼務し、有機ELデバイスの製造システムの開発及び金属加工のIoTを研究。2015年に取締役CTOに就任後はモノづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画・開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織・環境構築を推進。

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