Chatworkは中小企業のユーザーが多いビジネスチャットツールだ。用途別のチャットグループの作成やタスク管理といった機能も利用できる。
富士油圧精機ではChatworkをCADDi Drawerと連携させる形で運用している。これによって吉田氏は「図面に基づく企業内の意思決定の流れを整えることができた」と説明する。
例えばメンテナンス部品を手配する場合、承認を得るために該当するCADDi Drawerの図面リンクを貼って上長にChatwork上でメッセージを送る。上長が図面を確認し、問題がなければExcel上で承認ボタンを押す。すると、次の承認者へと自動的に処理が移っていく。承認の押印が不要になったため、「一歩も動かずに図面を承認できるようになった」(吉田氏)。
社員の多くがChatwork上でのやりとりでは、早期のレスポンスを心掛ける意識を持っている。「特に剱持は3分でレスポンスを送ってくる。ぜひ見習ってほしい、と社員には伝えている」(吉田氏)。これによって承認が下りるまでの待機時間を、大幅に短縮できるようになった。
この他にも、総務部や営業部、組み立てや電気施工を担当する第一製造部では、主に出張時のコミュニケーションツールとして利用している。吉田氏は「出張の出発時や客先入門/出門時の報告をルール化しているが、その際に使っている。各部署や課でグループチャットを作成しているので出張者の行動が把握できて便利だ」と語った。
CADDi Drawerを使うことで、客先でPCやスマートフォンから図面を参照してChatworkを通じて部品を手配できるようになり、保守業務のプロセスも変化した。導入前は客先で問題のある部品をスケッチして、いったん帰社してから図面を探さなければならなかったが、それが不要になった。「業務プロセスのほとんどを、2つのツールを使って改善できた。デジタイゼーションからデジタライゼーションへと改革が進み、時間創出も進んだ。人員の再配置による組織変革も達成できた」(吉田氏)。
社内の特定の人に聞きに行くというアクションも大きく減らすことができた。マネジメント層は、意思決定のために社内の情報を自ら集めに行く行動が習慣化していたが、こうした行動を「体感で10分の1程度に減らせた」(剱持氏)。現場はいかに早く正確に情報を上げるか、マネジメント層はそれを基にいかに迅速に意思決定を下すか、などと社内のデータ流通に関わる役割分担が明確化された。
こういった使い方以外にも、さまざまな情報共有の基盤としてChatworkは機能している。例えば、剱持氏はChatworkを使い、直下の管理者層向けの教育や、展示会レポートの共有を投稿している。Chatworkを使うことで社内の情報の流れを可視化できる上、履歴などの確認で「言った言わない」の小競り合いも防ぎやすくなる。
デジタルツール導入前後で社員数も変化した。特に設計部門は「ツール導入前と比べると、半分程度減った」(吉田氏)ようだ。会社を離れた理由はさまざまだが、中にはデジタル化に抵抗して離れた人もいる。ベテラン人材も少なくない数が退職した。
一方で、富士油圧精機の業績は好調だ。2023年には期中で過去最高益を達成した。人員減による固定費削減の効果もあるが、「デジタルツールを使いこなせたからこそ、限られた人数でもこうした実績をたたき出せたという自負がある」と剱持氏は胸を張る。富士油圧精機がChatworkとCADDi Drawerを導入して約1年半が経過したが、改革プロジェクトの成果が業績にもしっかりと反映されたように見える。
吉田氏はデジタル改革で必要な要素として、「デジタル化のスタビライザーとなる人材の存在はとても大きい。当社の場合はそれが剱持だった」と語った。その剱持氏は「デジタルツールを導入して一番変わったのは、実は私自身の人生だったかもしれない。この年齢でも、『まだやれることがあるんだ』と気付けた」と語った。現在、剱持氏は社内のデジタル改革を積極的に推進しており、社員が自らデジタルツールの活用アイデアを積極的に出すようになるなど、各部署でポジティブな効果が現れている。
剱持氏は富士油圧精機と同じ中小製造業にも伝えたいメッセージとして、「私たちにとって、デジタルツールを駆使した改革は非常に大切だ。経営層は部下に指示を出すだけでなく、自ら改革に参画し、社内の人材に責任と権限を与えてのびのびと取り組めるようにしてほしい。それが日本のモノづくり産業の活性化につながっていくはずだ」と熱く語った。
今後、富士油圧精機ではスキル管理系のデジタルツールなども導入していく予定だ。一度は危機的状況に陥った同社だが、“気付け”となったデジタルツール導入から始まる改革をこれからも続けていく。
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