実際に、富士油圧精機がCADDi DrawerとChatworkをどのように活用しているか紹介したい。
CADDi Drawerはクラウドに上げた図面情報を基に、独自アルゴリズムによる類似図面検索機能などを提供するクラウドサービスだ。富士油圧精機ではCADDi Drawerに、部品図に加えて部品組立図やレイアウト図など、10〜20年前の主力製品の図面も含めて格納している。
カードフィーダーの場合は部品だけで約200枚、一番多い機械だと500〜600枚もの図面が必要になる。導入前の富士油圧精機では、これらを全て紙で管理していた。図面を使うのは設計業務だけではなく、客先での見積もり作業や、製造機器に入力する加工プログラム作成などでも必要になる。これらの業務を通じて、社内の従業員の約8割が何らかの形で図面情報を使っていた。
その中で過去の紙図面の参照は、ほとんどが「記憶頼り」(吉田氏)で行っていた。当然、過去図面を見るだけで多くの手間と時間を費やすことになる。さらに社員の多くが使う関係で、図面を管理している設計部門の組織内での発言力がどうしても強くなってしまうという弊害もあった。富士油圧精機は「情報の既得権益化」(剱持氏)と表現するが、これが設計改革の抵抗勢力を生む遠因にもなっていた。
「改革とは自社の問題点と向き合うことだが、当時の設計部門にはそれを避けて、他部門や外部環境を課題視するような他責傾向があった。機会を得て、自分たちの問題点を直視するのが大事だと気付けた」(剱持氏)
CADDi Drawerの導入で過去図面を誰でも参照しやすくすることで、こうした課題は解決の方向に向かった。製造業ではよく、参照したい過去図面が見つからないので「描く方が早い」と新規図面を引いてしまう事態が生じるが、この頻度も減った。
「1枚新規図面を描くと、後工程が1時間遅れてしまう。CADDi Drawerを導入するまではこうしたことに気付いてもいなかった。過去図面という資産で勝負ができるのはとても大きなメリットだ」(剱持氏)
さらに富士油圧精機は図面だけでなく、顧客情報や従業員の顧客先への出張情報なども格納している。「CADDi Drawerの導入を機に、社内の情報は資産になり得ることに気付いた。情報は常に使うわけではない。資産として生かすには、情報を使いたい時に使える仕組みが必要だ」(剱持氏)。
導入前はセキュリティリスクの観点から図面管理をクラウドサービスで行うことへの抵抗感も社内にあった。だが、安全性を確認した後は、むしろ、データのクラウド保存によって被災時のデータ保全に役立つなど、BCP(事業継続計画)の観点でも意義があることに気付いたという。
剱持氏は設計業務の展望として、「全て格納するからどれだけ図面を作成しても良い、ではなく、過去図面を生かせば何枚作るだけで済むか、といった考え方にシフトしていきたい。本当に必要な図面とは何かを考え直していく」と説明した。
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