「脱COBOL」が示す生成AIによるレガシープログラミング言語からの移行プログラミング基礎解説(3/3 ページ)

» 2024年04月03日 07時00分 公開
[田中裕一MONOist]
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レガシーコードの保守方法を知る開発者の高齢化が急速に進む

 現状として、レガシーコードの保守方法を実際に知っている開発者の高齢化が急速に進んでいます。これは誰にも止められない認識すべき現実です。人材が枯渇する前に脱COBOLを進め、システムの近代化を実現させなければならないという時間との戦いの真っ只中にいます。このプロセスはすぐに完結するものではなく、完了までに10年とは言わないまでも数年はかかるでしょう。この変革のスピードとコストは、注目を集める生成AIの助けによって根本的に削減することができます。その結果、工場DX、その先にはデジタル経済の基盤強化にも寄与するといえます。

 この1年で、生成AIがプログラミング作業を支援する「ペアプログラミングツール」は、ソフトウェア開発の本質を変え、AIが労働力に加わる世界初の例の一つになったといえます。既にAIを搭載した開発者ツールによって、コードの50%近くを完成させることができ、ほぼ半分の時間で作業を完了できるようになっています。今後数年間で、AIがプログラミングの全サイクルを動かすようになり、こうした生産性の向上は55%(1.55倍)から1000%(11倍)に急速に拡大する可能性があります。現在、AIはメインフレームのコードベース全体を解読し、開発者がCOBOLからJavaやGo言語のような最新のソフトウェアへの移行を完了するために必要となるプログラミング作業の最大80%を担うことができるようになっています。ペアプログラミングツールとしてのAIの能力は、今後数年のうちにさらに高まっていくことでしょう。

 特に製造業では、AIを搭載した「GitHub Copilot」のようなツールが、新任の開発者がレガシープログラミング言語に取り組む際に直面する課題を克服できるよう支援してくれるはずです。製造業向けのソフトウェアやシステムの中には、15年以上前にレガシー言語で書かれたものがあり、このようなソフトウェアを作成した開発者は現在引退しまっているか、あるいはドキュメントがないため、新任の開発者はこれらのコードまたは言語そのものが解読できない状態に陥ってしまいます。このような開発者や、新しいプログラミング言語/フレームワークを模索している開発者にとって、AIは貴重な開発ツールというだけではなく、コーチにもなり得る副操縦士(Copilot)なのです。開発者はAIからのコード提案に触れることで、さまざまなコーディングパターン、慣用的な表現、効率的なアルゴリズムに触れ、レガシープログラミング言語を理解できるようになります。つまり、コードの保守、新機能の追加、コードの移行が可能になります。

「GitHub Copilot」によるコード提案の例 「GitHub Copilot」によるコード提案の例[クリックで拡大] 出所:GitHub

開発者を反復的な定型コードの記述という作業から解放する

 ただ単なるレガシープログラミング言語からの脱却だけにとどまらず、生成AIを活用したプログラミング環境を組織全体で利用できる体制を構築することで、コーディングのスピードは55%以上向上させることができます。組織全体での導入によって生産性が飛躍的に向上し、企業は高品質の製品を迅速に市場に提供できるようになるのです。

 AIは開発者を反復的な定型コードの記述という作業から解放し、ビジネスロジックやソフトウェアの開発の本質的な部分に集中させられるようになります。このシフトはコードだけの問題ではなく、開発者が最も重要なこと、つまり卓越したソフトウェアの開発と有意義なビジネスインパクトの推進に集中できるようにする戦略的な動きなのです。

「GitHub Copilot」のメリット 「GitHub Copilot」のメリット。コーディングの速度を55%高速化し、利用者の満足度は75%に達している。また、GitHub上で開発されたコードのうち46%にGitHub Copilotが活用されている[クリックで拡大] 出所:GitHub

筆者プロフィール

田中 裕一(たなか ゆういち) GitHub プリンシパルソリューションズエンジニア

大学院卒業後、企業向けパッケージ開発のソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、Webサービス開発のソフトウェアエンジニア、プロダクトマネジャーを経て、2018年よりGitHubに所属している。著書/訳書に「Java最強リファレンス」(SBクリエイティブ)、「システム運用アンチパターン」「オブジェクト設計スタイルガイド」(オライリー・ジャパン)がある。
GitHub https://github.co.jp/


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