製造業の物流を取り巻く大きな変化、今取り組むべきこと製造業DXプロセス別解説(8)(2/2 ページ)

» 2024年03月05日 08時00分 公開
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なぜ物流DXの取り組みが必要なのか

 ボトルネックはどこか? 問題がどこに発生しているのか? 設備稼働率はどうか? などについて掌握しておくことは、その必要性は誰しもが認識していると思う。作業工程別の生産性やスループットをモニタリングすることで、どのような条件下でKPI(重要業績評価指標)が変化するかを事前にシミュレーションしておくことが非常に重要となる。変化への対応、常に今考え得る最良のオプションを洗い出しておくこと、これは物流戦略に他ならないのである(図3)。これらを実現するには、現場の情報を可視化するツールと、シミュレーションを実行するソフトウェアの力が欠かせない。

図3 図3 物流改革の枠組みの全体像[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 しかし、現実の製造業の物流を見てみると、物流センターや工場内物流において、どの作業工程にどれだけ時間を要しているのか、自社の実態を正確に掌握していないケースが非常に多い。特に、部分的に自動化された物流センターでは、設備のブラックボックス化が大きな課題になっている。明日、あさって、さらには1カ月先の「ある日」の状態を正確に再現しシミュレーションすることは、在庫があふれて置き場所がなくなるといったトラブルを未然に防ぎ、かつ、トラックバースの順番待ちや自動倉庫のキャパシティーオーバー対応に必要な人員も事前に確保できることを意味する。こうして可視化された未来の情報を営業部門や調達部門、パートナーなどと共有することで、正確な打ち手の検討が可能となる。ただし、このようなデジタルツインをフル活用した領域まで達している事例は、一部の先進的な企業を除き、非常に少ないのが現状である。

本来取るべきアプローチ

 企業の物流改革の手法を見てみると、なぜかいまだにコンペが多いのが実情である。確かに、短期的な効果は刈り取れるかもしれないが、本質的な解決策になっていない。これは1990〜2010年頃までの物流コストが下がり続けた時代のアプローチ方法であり、習慣的に踏襲しているにすぎない。

 ここ最近の急激な物流コスト上昇局面では、取るべきアプローチを変化させる必要がある。このような企業に限って、物流センターの稼働は土日祝休みで9〜18時までとなっており、設備稼働率も30%を切っている始末である。実に70%もの時間が非稼働の状態になっているわけだ。さらに、物流センター内の作業エリア別稼働率まで落とし込んでみると、入荷エリアが午後からは空き状態になるなど、もう一段稼働率が低いことも分かる。

 本来は、適切な設備投資を行い、可能な限り稼働率を上げて、短期間で投資を回収するアプローチを取るべきである(図4)。物流現場で日々行われるムダを省く改善活動はとても大切だが、それだけでは既存業界をディスラプト(破壊)しようと、ゲームチェンジを仕掛けるプレイヤーへの対応として十分ではない。

図4 図4 ハイパーオートメーション化された物流センターのイメージ図[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 実際に、自動化やロボティクス化に向けた投資の最適値を検討してみると、投資回収期間が長くなり、どこまで自動化するべきか? どこまでは人手で対応すべきか? といった問いと向き合うことになる。稼働率×回収期間×投資金額の最適値を求めるべく、変化に対して柔軟な自動化が必要になるのは言うまでもない。われわれアクセンチュアは、この問いに答えるべく、Mujinとの合弁会社であるAccenture Alpha Automationを設立した

 この取り組みによって、経営と現場データのシームレスな結合を実現し、データ主導型経営と自動化/省人化を加速させ、日本の製造業のさらなる発展に貢献したいと思う。



 次回は、購入/使用に焦点を当てたDXについて紹介する。

筆者プロフィール

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豊田 正雄(とよだ まさお) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 シニア・マネージャー

物流×ITの事業領域で25年。ヤマト運輸/ヤマトシステム開発で物流系ITおよび3PL事業の推進を経て、アクセンチュアに入社。サプライチェーン領域における輸配送/在庫拠点配置の最適化、物流センターの効率化/自動化を通じて、荷主/物流事業者がともに発展する未来に向けて日々奮闘中。

インダストリーX|アクセンチュア(accenture.com)


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