製造業の物流を取り巻く大きな変化、今取り組むべきこと製造業DXプロセス別解説(8)(1/2 ページ)

製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第8回は、製造に必要なモノを調達したり、製造したモノを送り届けたりするための「物流」を取り上げる。

» 2024年03月05日 08時00分 公開

 前回は、ディスクリート系製造におけるモノづくりイノベーション発想(Design for Manufacturing)のアプローチについて論じた。今回は、物流領域におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて、日本の製造業が現在直面する大きな変化を読み解くとともに、今取り組むべきことをテーマとした本論を展開したい。

図1 図1 本連載で製造業DXに向けたアプローチを解説する10のプロセス。今回のテーマは赤色で示した「物流」がテーマとなる[クリックで拡大]

ECがもたらした製造業における物流機能の変化

 この20年間で製造業に訪れた大きな変化の一つとして「EC(Eコマース)」というキーワードを上げても異論はないと思う。あらゆる物がECで買える時代になり、既存の流通チャネルへの配慮から、表向きは「ECで販売していない」ことになっている企業でさえ、実際にはアマゾン(Amazon.com)などで販売しているケースも増えている。

 また、在庫を持たないEC型ビジネスモデルの浸透により、メーカーへの発注データは、1つの明細で10個や20個といった複数個の注文から、1明細につき1個のECオーダー単位へと細かくなっている(図2)。その昔、小売店の在庫を買っていた時代は、メーカー側に販売物量の波動が直接伝わることは少なかった。しかし今は、消費者の購買波動がダイレクトにメーカー側に伝わるようになった。これは、サプライチェーン上の在庫ポイントがメーカー側に集約されたことを意味する。業務効率化の名の下で、API/EDI/EOSを推進することで、受発注業務を効率化したが故の副産物といえるであろう。

図2 図2 最適発注量の変化[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 この流れは、サプライチェーン上の中間在庫がなくなり、これまで流通側が担っていた機能をメーカー側が実装することを意味する。また、小売店を経由しない注文は、これまで販売店が担っていた修理やアフターサービスを消費者が受けられなくなるとともに、メーカー側が消費者向けのサービスを直接提供せざるを得なくなる。

 職業柄、日本を代表するような製造業の物流センターに行く機会が多いのだが、20年前から物流センターが変化しておらず、中には40年前の建物をそのまま利用し、雨漏りや床を修理しながら使っている、と言った涙ぐましい話も頻繁に見聞きする。物流がコストセンター的な位置付けから変わっていないのである。

 しかし、昨今の自動化、ロボティクス化の流れの中で、競合他社が先んじて自動化投資を行った結果、時間当たりスループットが劇的に増大し、ランニングコストの大幅な削減が実現されると、自社にとって大きな脅威になることは間違いない。

 グローバルの動きを見てみよう。アクセンチュアが世界14カ国/1200人以上の経営幹部に実施した調査「製造業におけるレジリエンス」によれば、多くの企業が近年の地政学リスク増大により、グローバル化されたサプライチェーン網の脆弱(ぜいじゃく)性への対応を迫られており、3年後には複数工場による分散生産を41%から78%に増やし、販売と生産を同じ地域で行う地産地消は4%から85%に増加させることが判明した。さらに、レジリエンス(危機から立ち直る力)のレベルが高い企業は、低い企業より3.6%も高い成長率を達成していることが分った。

国内における物流行政の動き

 もう一つの大きな変化として、2024年問題に代表される物流行政の変化が挙げられる。業界団体や自社で「自主行動計画」を作成された企業も多いのではないだろうか。2023年10月6日付で内閣官房が発表した「物流革新緊急パッケージ」により、「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」「商習慣の見直し」の3つの施策が確実に進むであろう。

 物流施設の自動化の推進、荷待ち2時間ルール、共同配送、モーダルシフトなどさまざまな取り組みが推進される中、大手の荷主企業には物流管理の責任者(CLO:Chief Logistics Offer)の設置が義務化される。長年、企業におけるSCM部門の在り方について議論がなされているが、今回は一歩進んだ形になることが予想される。日本の製造業では、物流部門の管轄領域は完成品在庫を納入先/顧客に届けることまでとし、工場への部品の供給といわれる調達物流の領域は、製造部門側が担当していることが多いのも事実である。CLO専任の義務化は、全社の物流を統括するSCM部門が本格的に組織化されることを意味する。

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