特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

迫りくる「2025年の崖」、真のデータ活用を実現するスマート工場への道筋とはモノづくり現場の未来予想図(2)(2/2 ページ)

» 2024年01月30日 06時30分 公開
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200拠点のスマート工場化をAVEVAのSCADAが支える

 ここで、シュナイダーの例を参考にお見せしたい。前回の記事では、シュナイダーエレクトリックでも「アドバンスト ライトハウス」というカテゴリーで5つ、「サステナビリティ ライトハウス」で2つ、合計7件のライトハウス認定を受けていることを紹介した。この度、アドバンストライトハウスに認定されていたインドのハイデラバード工場が、新たにサステナビリティライトハウスの認定も取得し、認定は合計8件となった。

 シュナイダーでのこうしたスマート工場への取り組みは、2017年からプロジェクトとして開始しており、6年間ですでに200カ所の工場をスマート化している。それらの工場を支えているのが、シュナイダーエレクトリックのグループ会社AVEVAのSCADA「AVEVA Edge」だ。AVEVAは全世界180カ国以上の12万以上の工場、プラントで、合計80万本以上のライセンス導入実績を誇る産業オートメーションソフトウェアのトップブランドで、日本国内のSCADA市場においてもトップシェアを誇る(図2)。

図2 2020年の日本市場におけるSCADAのシェア[クリックで拡大]出所:シュナイダーエレクトリック

 シュナイダーエレクトリックではスマート工場において成功の鍵となる5大要素を、「運用効率と生産性向上」「インフラとサイバーセキュリティ」「ガバナンスとチェンジマネジメント」「設備効率ためのデータ管理」「エネルギー管理とサステナビリティ」と捉えている(図3)。この中で、「AVEVA Edge」は「運用効率と生産性向上」と「設備効率ためのデータ管理」に関するデータを収集している。

スマート工場において成功のカギとなる5大要素 図3 スマート工場において成功のカギとなる5大要素[クリックで拡大]出所:シュナイダーエレクトリック

 前回は、プロセス効率最適化のための意思決定が行われていなかった米国のレキシントン工場におけるライトハウス取得の成功事例を紹介したが、それを支えたのも「AVEVA Edge」だ。

 また、インドネシアのバタム工場も、パフォーマンス効率のモニタリングを強化するなど、主に予兆保全のためのデータ取得に「AVEVA Edge」を活用。これによって、マシンダウンタイムを44%削減し業務効率を12%向上させ、従業員エンゲージメントも5%向上した。さらに、一部の重要なマシンのスクラップコストが40%削減されるなどの効果が得られた(図4)。

図4 インドネシアのバタム工場におけるスマート工場の課題と効果[クリックで拡大]出所:シュナイダーエレクトリック

迫り来る「2025年の崖」にどのように備えるのか

 一方で、これからスマート工場を構築していく上では大きな課題もある。それが、既存システムのレガシー化やIT人材不足による経済損失が予想されている「2025年の崖」だ。この言葉は経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」に登場した。

 特に、現在ERPとしてSAPを採用している企業にとっては、保守切れ問題が大きくのしかかる。2027年まで現システムのサポートが延長されたとはいえ、アーキテクチャを一新させた新バージョンへの移行に頭を悩ませていることだろう。

 確かに、2025年以降を考えると、スマート工場への対応よりもERPシステムの刷新を優先させることは正しいといえる。だが、重要なのは、その先を見据えた計画を立てられているかということだ。

 例えば、これまで製造の現場でITシステムを支えてきた人材がいなくなると、ITとOT(Operational Technology)の両方の知識を持つ人材が必要な、MESの導入が難しくなる。MESに対応できる人材を育てようとしても、MESはさまざまな領域のデータを見る必要があるので時間がかかるだろう。

 そこで手法の1つとして検討したいのが、まずSCADAに対象を絞るという選択だ。

 シュナイダーも、SCADAトップシェアのAVEVAを自社工場に自ら導入し、スマート化の成果を上げてきた。自社の現場で積み重ねてきた具体的な導入経験は、スマート工場実現のためのシステムからハードまでトータルな提案につながっている。

 先述したように、MESは生産計画や製品品質など、生産を実行するために必要な供給計画に関するデータを集約するシステムとなる。重要な機能はモニタリングと生産管理に大別され、モニタリングの部分はSCADAでその機能を担うことができる。

 データ範囲が広いMESに比べて、既存システムからの拡張が比較的始めやすいSCADAに限定して進めることで、導入のスピードも上がり、IT側、OT側それぞれでの管理も行いやすくなるはずだ。


著者紹介:

シュナイダーエレクトリック

インダストリー事業部 バイスプレジデント

角田 裕也

1999年同志社大学卒業後、キーエンスに入社。精密測定機器セールス部門のリーダー、マネジャーを務め、2009年にシーメンス入社後はモーションコントロールソリューション、IoTソリューション部門の部門長などを歴任。その後、アクセンチュアを経て、2020年にシュナイダーエレクトリック入社、現在はインダストリアルオートメーション事業部取締役バイスプレジデントとして同部門を統括。



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