ユーザーと開発者が議論、自動運航船開発の“日本らしい進め方”船も「CASE」(2/3 ページ)

» 2024年01月26日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

社会は自動運航船を受け入れられるのか?

 続いて中村氏は、自動運航船の技術的な、そして、社会的な課題について言及した。そこで特に問題として挙げているのが自動運航船の開発プロセスにおけるシステムインテグレーターの不在だ。「自動運航船の開発プロセスにおけるコンセプトオペレーションからリスクアセスメント、設計、開発、評価、検証、製品化といった過程を一気に取りまとめるシステムインテグレーターというのが現在いない」(中村氏)

 加えて、社会受容性の構築においても法律、規則、技術規格の作成が求められている。自動運航船を利用する船員や海事関係者への教育プログラムの策定も重要な課題だと中村氏はいう。

 以上の課題解決にどのように取り組んでいるのかについて、中村氏はMEGURI2040ステージ2における開発プロセスを例に挙げて説明した。MEGURI2040でMTIは自動運航技術開発のプロジェクトとしてステージ1で関わったDFFASの成果を継承してさらに発展させることを目指した「DFFAS+」を進めている。これは日本財団の支援による自動運航船の社会実装プログラムで、2022年10月から2026年3月までを予定している。コンソーシアムには51社が参加しており、4隻の実証船を用いて技術の規格化、社会的需要の向上を目指すという。

 DFFAS+の目標は、技術開発と環境整備の両面から自動運航技術の社会実装を目指すことにある。これをおろそかにすると社会が新しく登場した技術を受け入れてくれなくなる。技術開発では実証実験の実施、プロセス基盤の強化、製品化、認証スキームの構築に取り組む他、環境整備では、法律の整備、運航に携わる人材要件と教育方法の検討、自動運航によってもたらされる価値の創造とその価値の社会的理解を深めるための活動に注力する。

 この活動目標の実現のために、DFFAS+コンソーシアムでは「実証」「規格」「社会実装」といった3つのワーキンググループを構成している。実証ワーキンググループは、実証実験を実施する新造コンテナ船1隻と既存の本船を改造した3隻で構成されている。規格ワーキンググループでは、センサー、インテグレーター、プランナー、コントローラーなどの航海機器に関する4つのワーキンググループと、機関の遠隔監視、船陸間通信、データレコーディング、自動運航ステータスマネジメントなど、合計8つのワーキンググループに分かれて規格策定を進めている。

MEGURI2040ステージ2におけるワーキンググループ構成[クリックで拡大] 出所:MTI

実証ワーキンググループの役割とは

 実証ワーキンググループでは実証実験に向けて、ワーキンググループをさらに「設計とリスクアセスメント」「センサー、センサー統合機能の開発」「航海計画作成機能の開発」「操船制御機能の開発」「係船機能の開発」「機関プラントの遠隔監視支援機能の開発」「船陸間通信機能の開発」「自動運航ステータス管理、情報記録管理機能の開発」「陸上支援機能の開発」の9部門に細分化してそれぞれで開発を進めている。

実証ワーキンググループの内部でさらに設けられている9つのワーキンググループで設定されたテーマ[クリックで拡大] 出所:MTI

 DFFAS+においてMTIは実証ワーキンググループの取りまとめを担っている。その役割として以下の7項目があるという。

  • PMO(Project Management Office)と実証旗船リーダーとしての取りまとめ役
  • 2025年に実用可能な自動運航船のコンセプト設計
  • リスクアセスメントやサイバーセキュリティ
  • 水槽実験や実船実験を最小化した運動モデル作成と作成手法確立
  • 360度カメラ画像認識システムの距離精度向上
  • 機関遠隔支援コンセプト設計およびリスクアセスメント(プラント異常原因推定機能、復旧支援機能開発)
  • 自動運航システムの各種規格作り

 中村氏はこの中から特に「コンセプト設計」「リスクアセスメント」「各種規格作り」について詳しく説明している。

 従来、コンセプト設計では、日本海事協会、ビューロベリタス、ABSといった船級協会からそれぞれコンセプト設計の承認を受けている。自動運航船の開発プロセスでも、自動運航船の船級取得およびコンセプト設計の承認取得が目標となる。

 DFFAS+ではここで「Vプロセス手法」を取り入れることで、開発工程とテスト工程で各作業をリンクさせ、検証作業を効率よく実施することで品質と安全性の確保を目指している。ここでは、概念設計の内容を全体試験で確認→概念設計内容を全体システム試験で確認→基本設計の内容を結合機能試験で確認→詳細設定の内容を単体試験で確認……といったフローで設計と試験をリンクさせて各段階でチェックする。

 各設計段階でリスクアセスメントを実施し、設計の妥当性を確認しながら開発を進めることで「手戻りによる開発停滞」を防ぐのが目的だ。「この開発手法は日本海事協会の自動運航船ガイドラインやABSの自動運航船ガイドラインにも記載され、自動運航船の開発では推奨されている中で、MTIもこの手法を取り入れて開発を進めている」(中村氏)

設計と試験を細かく設定して実施することで開発作業の手戻りを減らして効率を高めるVプロセス手法[クリックで拡大] 出所:MTI

 Vプロセス手法においてはシステムのコンセプトや基本的な動作原理を明確にする「コンセプトオペレーション」が必須だ。システム享受者からシステム開発者に対して開発目標を定め、最終的なシステム評価の基になる。

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