製造業DXが進む中で、企業の枠を超えた形で自由なデータ流通を安心して行える「データ流通基盤」の重要性が高まっている。既に欧州などで動きは出ているが、2024年はその仕組み作りや主導権争いが進み、ある程度の形が定まってくる1年になる見込みだ。
2023年は製造業でもさまざまな分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められ、業務の効率化や、新たなビジネス創出などの例が見られた1年となった。個社レベルで取り組みが広がる中、今後関心が高まっているのが「企業間」の自由なデータ活用領域の拡大だ。人手での処理をほぼなくし、全てをデータを基軸とした新たな仕組みとすることで、従来の商習慣や業界構造、業界のビジネスモデルを大きく変えることが期待されている。
特にカーボンニュートラルなどにおいて「スコープ3」などサプライチェーン内での情報共有が求められるようになり、効率的に実現するためにはDXにより、データの取得や共有の仕組みは必須となる。ただ、そのためには、企業の枠を超えた形で自由なデータ流通を安心して行える「データ流通基盤」のようなものが必要になってくる。既に欧州などで動きは出ているが、2024年はその仕組み作りや主導権争いが進み、ある程度の形が定まってくる1年になる見込みだ。
DXの進展によりデータを基軸とした業務の変革が進み、従来は難しかったさまざまなデータの取得や活用が広がり、データを通じた幅広い活動が保証できるようになってきた。企業内でこれらが広がることで、こうしたデータを企業間や業界横断で活用するため、仕組み作りが進んでいる。
このデータ流通の仕組みとして、特に欧州を中心に主導権を握ろうという動きが生まれている。2019年にはドイツ政府とフランス政府がセキュリティとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのインフラ構想として「GAIA-X」を発表した。GAIA-Xは、欧州の企業や行政、機関、市民の権利を守るためのデータ保護や透明性、信頼性の担保、相互運用性のあるデータ流通プラットフォームの社会実装を目指すものであり、欧州以外の市場参加者にも参加を呼び掛けている。日本からもNTTコミュニケーションズなどが積極的に参加している。
このGAIA-Xの自動車産業版として、自動車業界に必要なサプライチェーン情報などを一貫して流通させる仕組みとして構想されたのが「Catena-X」である。Catena-Xでは、開発から製造、販売、廃棄までのプロセスにおける各種製造データや、CO2排出量データなどを流通させる基盤として計画されている。ドイツの自動車メーカーやITベンダーなどが積極的に推進する動きを見せており、日本企業では、旭化成やデンソー、富士通、NTTコミュニケーションズなどが参加している。
さらに、2023年2月には、このCatena-Xの普及を促進し実運用を進める会社として「Cofinity-X」が設立されている。Cofinity-Xは、BASFやBMW Group、Henkel、Mercedes-Benz、SAP、Schaeffler、Siemens、T-Systems、Volkswagen、ZF Friedrichshafenの計10社によって設立され、Catena-Xのコンセプトを実際に動かすための企業だ。自動車バリューチェーン全体でデータを安全にやりとりするための製品やサービスの提供を目的としており、2023年10月には既にベータフェーズでの試行を開始したとしている。
また、Catena-Xと同様、製造機械などの製造産業向けの情報共有の基盤として計画が進められているのが、「Manufacturing-X」だ。サプライチェーンを意識し水平方向でのデータフローをより強く意識しているCatena-Xに対し、Manufacturing-Xは製造の局面に関わる企業内での活動を集約する垂直方向のデータフローの仕組みを意識している。機械や製品の生産データ、製造における品質データ、顧客データなどまで、製造現場から顧客まで一貫したデータを活用できるようにする仕組みを目指している。
それぞれの産業に合わせて必要とされるデータの種類や粒度は変わってくるが、インダストリー4.0やインダストリー5.0などを通じて、ドイツではこうした産業別でのデータ共有の枠組み作りを進めていく方向性を示しており、2023年以降、概念だけではなく実際に使えるツールなども生まれ始めている。2024年はこうした動きがどこまで実践的に進むのか、その価値に注目される1年となるだろう。その成果次第では、産業に応じたデータ共有基盤の主導権を、ドイツやフランスが握ることは十分あり得る。
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