64車種とエンジン3機種での不正は、2023年4〜5月に発表した側面衝突試験(UN-R95)やポール側面衝突試験(UN-R135)での不適切行為を受けて第三者委員会が調査した結果、判明した。
側面衝突試験に関しては、海外向け4車種で評価を行う際にテスト車両のドアトリムに対して量産時の仕様にない変更を加えた。正規のドアトリムで改めて実施した評価では基準を満たしていたが、余裕をもって合格するために不正な変更を行ったとみられる。衝突試験に一発合格することへの期待や、開発スケジュールを守ることなどが現場でプレッシャーになっていた可能性がある。
側面衝突試験の不正を受けてダイハツが社内の総点検を進める中で判明したのが、ポール側面衝突試験での不正行為だ。車両左側のポール側面衝突試験は実施したが、そのデータを右側のデータとして転記し、認証で提出した。右側の評価を行う時間や車両がなかったため転記したとしている。社内に右側の試験データは残っていなかったという。該当車種はダイハツ「ロッキー」とトヨタ自動車「ライズ」のハイブリッド車(HEV)だった。改めて実施した社内試験の結果、全ての項目で法定基準を満たしていた。
第三者委員会によれば、不正行為は「不合格が見込まれるため、合格にする目的の行為」「合格が見込まれるが、不合格を回避するための行為」など認証試験に合格するための行為の他、法規適合性に関する正確な知見がないために過去の不正を踏襲した行為、「事実上問題ないので法規でも問題ないはずだ」と勝手に判断した行為などがみられた。
こうした意図の下、車両や実験装置に不正な加工や調整を行ったり、国土交通省に提出する試験成績書に不正確な虚偽の情報を記載したりした。試験データを捏造(ねつぞう)、流用、または改ざんすることで、試験成績書作成のベースとなる実験報告書に虚偽の情報を記載した行為もあった。
調査の結果、25の試験項目において174個の不正が見つかった(1つの不正行為を1個とカウント。不正な加工や調整が28個、虚偽記載が143個、元データの不正な操作が3個)。該当する車種とエンジンは、生産中/開発中が国内28車種、海外16車種、エンジン1機種。該当するが既に生産を終了したのは20車種、エンジン3機種となる。
不正行為が発生した直接的な原因は、過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャーであるという。開発期間を短縮する「短期開発」によって発生する負荷やその悪影響を考慮せずに、短期開発を推進し続けた経営幹部の責任は重いと第三者委員会は指摘した。
不正行為は古いものは1989年から確認されており、2014年以降に件数が増加した。2011年に「ミライース」で短期開発に成功し、2013年ごろから短期開発がさらに推し進められたことがその要因の1つであるという。また、トヨタ自動車の中嶋氏は「2014年以降、小型車を中心に海外展開モデルやOEM供給が増えたことが現場の負担を大きくした可能性があることを認識できていなかった。深く反省している」とコメントした。
短期開発がダイハツの存在意義として開発部門の組織内に根付いた結果、開発の各工程が全て問題なく進むという想定の下で、問題が生じた場合に対応する余裕を全く織り込まずにスケジュールが組まれるようになった。その結果、開発期間の延長は販売日程に影響を及ぼすため問題に対して柔軟に対応することが困難だったと第三者委員会は分析した。デザインの決定などに時間を要したり、設計変更で後工程に影響を与えたりした結果、最終工程である認証試験にしわ寄せされたとしている。
さらに、担当部署以外では「認証試験は合格して当たり前」「不合格になってスケジュールを変更することは到底あり得ない」という考えが強かった。衝突安全試験の担当者は、コスト削減で使用できる試験車両に制限がある中で一発合格への強烈なプレッシャーにさらされながら業務を行っていたと第三者委員会は指摘した。その結果、「認証申請書類に虚偽の情報や不正確な情報を記載してはならない」という当たり前の感覚が失われていったとしている。
第三者委員会によれば、室長や課長などの管理職が不正行為を指示あるいは黙認したという事実はなく、現場の係長などのグループリーダーによって行われたとしている。管理職が部下の多さや多忙さを理由に現場に足を運んでいないため業務への理解がなく、現場のメンバーが相談、報告しにくい状況が問題を抱え込ませ、不正を生んだと第三者委員会はみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.