これまで製造現場のコンプライアンス違反といえば、品質にかかわる不正や不祥事がメインでした。しかし近年、ESG経営やSDGsの広まりから、品質以外の分野でも高度なコンプライアンス要求が生じています。本連載ではコンプライアンスの高度化/複雑化を踏まえ、製造現場が順守すべき事柄を概観します。
製造現場を取り巻くリスクは多様化しています。自然災害やサイバー攻撃などの外部環境から受けるリスクだけではなく、不正/不祥事などの組織内部に起因したリスクを含め、自社の製造が停止し得るリスクは多岐にわたります。
製造現場におけるBCP(事業継続計画)は、単なる災害対策として考えるのではなく、「リスクが発生した際に、いかに重要な製品の生産を継続するか」という観点から見る必要があります。コンプライアンスリスクや人権問題、地政学リスクなど製造業を取り巻くあらゆるリスクに対応できる計画や体制を構築することが重要です。
本稿では、ESG(環境/社会/ガバナンス)関連リスクや地政学リスクなどの「エマージングリスク」にも対応できるBCPの検討のポイントや、危機が発生した場合でも組織が復旧する力(=組織レジリエンス)を高めるためのポイントを解説します。
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近年、製造業を取り巻くリスクは多様化しています。特にエマージングリスクと呼ばれる、現在は認知していないリスク、発生の可能性が極めて低いリスク、または影響が軽微であるリスクのうち環境の変化により重要なリスクとなる可能性があるもの(加速度的なスピードで環境変化が進んだことによる、今まで想定していなかったようなリスク)の動向を捉えて運営していかなければ、想定外の生産停止に追い込まれるなどの影響も懸念されます。
エマージングリスクには、以下のようなリスクが挙げられます。
エマージングリスクの中には一見すると製造現場からは直接なじみのないリスクもあるかもしれませんが、例えば、台湾有事のような地政学的非常事態が発生した場合には、「輸出規制や海峡封鎖などにより調達品が入ってこない」「中国、台湾の生産拠点が停止し日本やその他海外生産拠点で急きょ代替生産を行うことが求められる」など、自社の生産が停止、遅延する影響が想定されます。
一方で、想定外の事象が発生し得るため、BCPを検討する上でエマージングリスクを含め全てのリスクを想定することは不可能です。また、複数の事象が同時に発生する可能性も考えられます。
東日本大震災では想定外の津波が発生し、甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しいですが、今、そのような「想定外」にも対応できるBCPを構築していくことが求められています。その際に活用できるのが、「リソースベースアプローチ」(=オールハザード型BCP)と呼ばれる手法です。
前述の通り、リスク発生時のシナリオを想定しきることは不可能であるため、リソースベースアプローチでは、どのような事象が発生したとしても、「経営リソースにどのような影響が発生するか」という観点でリスクを評価し対応を行います。BCPに関連する国際規格である「ISO22301」などでも取り入れられたグローバルスタンダードな考え方であり、日本企業においてもリソースベースアプローチでBCPを再構築することを検討する企業が増えています。
製造現場においてラインを複線化するには大きな投資が必要であり、現実的には中長期的な視点で対策を検討しなければならないのが実情だと思います。増産に伴う新工場設立のタイミングで、重要な製品に絞って二重化を検討するなど、中長期の投資計画や事業計画と合わせた検討が必要となるため、BCP単独ではなく、その他のあらゆる機会やリスクを捉えて意思決定することが求められます。
重要な点は、そのような投資のタイミングにしっかりとリスク、BCPの観点を組み込んで意思決定することです。事前にリスクを可視化していなければ検討の俎上(そじょう)に載せることができなくなります。「どのような生産停止リスクが存在するのか?」という観点でボトルネック工程を可視化した上で、リスク状況を経営陣含め報告、共有しておくことが重要です。
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