電波の集中と高度な制御で動くモノに無線給電、PHS基地局の技術応用組み込み開発ニュース

京セラは5.7GHz帯における空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの実現につながる基礎技術を開発したと発表した。

» 2023年10月24日 10時30分 公開
[池谷翼MONOist]

 京セラは2023年10月11日、5.7GHz帯における空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの実現につながる基礎技術を開発したと発表した。ビームフォーミング技術やアダプティブアレー技術を組み合わせることで、移動体向けに安定して電力を供給できるようになる可能性がある。

人体の安全性を考慮しつつ、ドローンなどにも無線給電を

 今回、京セラが発表したワイヤレス電力伝送技術は、送電装置のアンテナから送り出した5.7GHz帯域のマイクロ波を、受電アンテナ側でエネルギーを電力に変換するというものだ。同技術を用いて、ミニカーやプロペラを動かすデモを公開した。

ワイヤレス電力伝送技術を使ったミニカーの走行デモ。電波法の関係で、マイクロ波が周囲に漏れ出すのを防ぐ布で周囲を覆った。なお、このデモではセンサーによるクルマの位置検出は行わず、クルマの想定速度から現在の位置を予想する形で電波を送っている。[クリックで再生]
ワイヤレス電力伝送技術によるミニカーとプロペラの動作デモ。電波の制御によって、給電対象を途中で切り替えている。[クリックで再生]
空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムのデモンストレーション概要[クリックして拡大] 出所:京セラ

 送信する電波形式は無変調信号(N0N)。送信出力は32Wで、供給電力はアンテナから1mの距離で2.381Wを想定している。現時点での伝送可能距離は約10mと見込むが、中継装置などを使うことでより遠くまで届かせることは可能だとする。送電アンテナのサイズは224×224mm、受信アンテナのサイズは35×35mmを想定する。

空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術概要[クリックして拡大] 出所:京セラ

 今回開発した技術が持つ特徴について、京セラは3点挙げている。

 1つ目は移動体に高速追従する電波制御技術だ。電波を一定の方向にのみ集中させるビームフォーミング技術と、電波の伝搬環境に適応するように指向性を変化させるアダプティブアレー技術を両立させて組み合わせることで実現した。ビームフォーミング技術で電波の集中を可能にするとともに、アダプティブアレー技術で移動体や伝搬環境の変化に対応できるようにした。電波の強さは減衰するが、壁の反射などを利用することで電波を送ることも可能だという。

対象物に高速追従する電波制御を可能にした[クリックして拡大] 出所:京セラ

 2つ目は望まない方向への電波放射を抑制できる点だ。ビームフォーミング技術に、特定方向への電波を弱めるヌルステアリング技術を組み合わせることで電波の影響範囲を高精度に制御する。これによって、電波の送信範囲にある人間や無線機器などへの影響を最小限に止められる。さらに、独自開発した制御アルゴリズムによるヌル広角化技術を用いることで、ヌルステアリング技術による電波制御範囲の拡張を可能にしているという。

対象物以外の不要な方向への電波放射を抑える[クリックして拡大] 出所:京セラ

 3つ目は電力変換効率の高さだ。前述の電波制御技術に、受信した電波を整流する独自のレクテナ回路技術を組み合わせることで、電波が持つエネルギーを70〜80%の効率で電力変換できる仕組みを構築した。京セラの独自調査によれば、この変換効率は「他社と比べて高効率」(同社)だという。

高効率な電力変換を実現[クリックして拡大] 出所:京セラ

 想定用途は多岐にわたるが、まずは工場内のセンサーやIoT(モノのインターネット)機器などをターゲットとして見据えているという。この他、PCやスマートフォンに加えて、ドローンなどのモビリティへの適用を想定する。移動体の位置情報などは対象に取り付けたセンサーと連携する形などいくつかのパターンを検討している。

 京セラ 研究開発本部 先進技術研究所 第1基盤技術ラボ 第1ワイヤレス研究課責任者の田中裕也氏は「スペースの都合などでIoTセンサーにバッテリーを搭載できず、導入を断念するケースもあったはずだ。当社の開発した技術であれば、工場設備などの狭い隙間などにも設置がしやすくなる」と説明した。

 他社が開発する無線給電技術と比較した際の独自の強みについて、京セラ 研究開発本部 先進技術研究所所長の小林正弘氏は、「当社はPHSの基地局などで使われる電波の制御技術に強みがある。この技術を用いることで、人体を避けて、目標物により安全に給電できる仕組みが実現できると見込んでいる」と説明した。

 今後の研究課題の1つとして挙げられるのが、給電効率のさらなる向上だ。想定用途で挙げられているドローンの飛行にはさせるにはさらなる発電効率化が求められる。田中氏は「マイクロ波を使っている都合上、競合の技術に比べると給電効率で後れを取っている面がある。電波の集中度合いを高め、受信側のレクテナ技術を発展させることでさらなる高効率化を目指す」と語った。

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