ArmプロセッサをベースにSDV(ソフトウェア定義自動車)の標準化を進めるSOAFEEが、2021年9月の立ち上げから2年を迎えた。SOAFEEの活動を支援するArmのオートモーティブ事業部門の担当者に、現在の活動状況について聞いた。
米国ナスダックへの上場が話題になっている半導体プロセッサ関連IPベンダーのArmだが、株式市場での高い評価は、スマートフォン向けプロセッサコアでほぼデファクトスタンダードとなっていることだけが背景にあるわけではない。IoT(モノのインターネット)市場と関わる組み込み機器向けのマイコンでも大きくシェアを拡大しており、今後生成AIなどで需要拡大が見込まれるHPC(高性能コンピューティング)市場でも存在感を発揮しつつある。そして、Armにとってもう一つの大きな市場になるのが自動車である。
いわゆるカーナビゲーションシステムを中心とするヘッドユニットのプロセッサについては、スマートフォンとの連携機能との関わりもあって既にデファクトスタンダードとなっている。しかし、そこからさらに将来を見据えて、自動運転技術などと併せて着実に進展するといわれているSDV(ソフトウェア定義自動車)について、Armプロセッサをベースに標準化するための取り組みを進めているのだ。
その標準化団体が、2021年9月に発足した「SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)」である。SOAFEE発足から2年を終えたタイミングに東京都内で開催されたAPAC(アジア太平洋)地域を対象とするシンポジウムに合わせて、Arm オートモーティブ事業部門 グローバルGTM担当バイスプレジデントのデニス・ローディック(Dennis Laudick)氏と、同部門 パートナーシップ担当ディレクターのロバート・デイ(Robert Day)氏来日した。両氏にSOAFEEの取り組みについて聞いた。
SOAFEEでは、SDVで想定されているクラウドネイティブな車載ソフトウェア開発のエコシステムの実現を目指すソフトウェアアーキテクチャとオープンなレファレンス実装の開発を進めている。発足当初は、Armの他、トヨタ自動車傘下のウーブンプラネット、フォルクスワーゲングループのソフトウェア開発会社CARIAD、大手サプライヤーのコンチネンタル、AWS(Amazon Web Services)、レッドハットなど十数社だったが、1年後の2022年9月は50社以上に拡大しており、2年後となる今回のAPACシンポジウムでは、いわゆる幹事会社であるGB(Governing Body)メンバー7社(Arm、AWS、ボッシュ、CARIAD、コンチネンタル、レッドハット、SUSE)を含めて96社となったことを明らかにした。参加を表明していない企業も12社あり、その中には自動車メーカーもあるという。
ローディック氏は「自動車技術の進化は今エキサイティングなタイミングを迎えており、さまざまな新技術が積極的に採用されている。今乗っている自動車と比べて、われわれの孫の世代には自動車は全く違うものになり、自動車こそが最新技術を集積したデバイスになっているだろう。そのためには自動車業界も大きな変革が必要であり、それがこれまでのメカ中心から、ソフトウェアをベースとするSDVへの移行になる。このような大きな変革は携帯電話機がスマートフォンに変わったのと同じだ。その中心にいたのがArmであり、今回も同じようにSOAFEEで変革の中心にいられることはとてもうれいいことだ」と語る。
SOAFEEの参加企業数は確かに増えたものの、現時点では具体的な成果が見える形になっているとは言い難い状況にある。「コミュニティーの規模が大きくなっていくのに合わせて、より複雑な問題を解決していくための基盤となるレイヤーの構築を進めている。そしてこの基盤を用いた『SOAFEE Blueprint』と呼ぶフルスタックのレファレンスが1つ出来上がったところだ」(ローディック氏)という。
2年間で参加企業数が約8倍にまで膨れ上がる一方で、SOAFEEはArmが主導する組織ではなく「コミュニティーが主体的に方針を決める組織」(同氏)であることを重視していることもあり、SOAFEE Blueprintという成果物ができるまでに時間がかかってしまったのは否めないところだ。
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