特に、社内向けの取り組みを見て感じることだが、日立は生成AI導入の効果を冷静に見極めようとしつつ、比較的慎重かつ段階的に環境を整備している印象がある。実際に吉田氏は、過去のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みで見られたような、新技術を社内に導入したが本格的な実用化に至らない、いわゆる「PoC(概念実証)疲れ」への懸念があると語る。
「AIが産業界で話題になり始めた2010年代の前半から中盤は、どの企業も手探り状態だったため何度もPoCを繰り返し、そこでうまくいかなくなることはある程度あった。ただ、DXを担う社内組織やプロジェクトの体制整備が進み、AI導入の予算や目的などが明確化されてくると、PoC疲れは大分減少してきたように思う。だが、ここ数カ月の生成AIに関する議論を眺めると、少し前のDXで良く見られた、技術ありきの考え方に戻ってしまっているようにも感じる。ある意味で、『DX2周目』の始まりに立っているようだ」(吉田氏)
吉田氏は新規技術を念頭に企業変革をイメージすること自体は悪いことではないとしつつ、「何をするか」という目的とセットで技術による改革を進めることの重要性を指摘する。日立では顧客から生成AI導入の相談を受けた時、ChatGPTなどの活用方法なども議論しつつ、まずは目的志向型のアプローチで議論を回せるようにしているという。
一方で、生成AIにはこれまでのDXで用いられてきた技術と異なる強みがあることも確かだ。例えば、ChatGPTはAIやデータ分析の専門知識がないユーザーでも、自然言語ですぐに利用できる点が特徴だ。こうした「技術の民主化」は現場改革のアイデアをすぐに試しやすくする。従来のDXで良く見られたトップダウン型だけでなく、現場発のボトムアップ型改革の加速も期待できる。
吉田氏は、日立 執行役社長兼CEOの小島啓二氏が同社グループ全体で生成AIを積極的に取り込む姿勢を示していることなどを念頭に置きつつ、「トップダウンでの動きも重要だが、現場への浸透を図るにはボトムアップの動きも大切になる。生成AIの長所は、トップダウンでもボトムアップでもDXを加速させるエンジンとなり得る点だ。両方セットで取り組むことで、日立社内も、顧客の事業もより大きく変革していけると考えている」と語った。
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