AUTOSARの最新リリース「R22-11」(その1):CAN XLの導入で何が変わるのかAUTOSARを使いこなす(29)(2/3 ページ)

» 2023年08月31日 07時00分 公開
[櫻井剛MONOist]

コンセプト#1(新規):CAN XL [FO] [CP] [AP]

 CAN系統の次世代版として策定されたCAN XL(Controller Area Network with Extended Length)のAUTOSARへの導入は、2020年の早いころから議論されてきました※1)。今回のリリースR22-11で導入されました。

 CPでは、SWS CanXL(CAN XL Driver)、SWS CanXLTrcv(CAN XL Transceiver Driver)が追加されました。なお、これらの文書は、既存のSWS Can(CAN Driver)や SWS CanTrcv(CAN Transceiver Driver)に対する追加差分情報のみを記載していますので、SWS Can(CAN Driver)およびSWS CanTrcv(CAN Transceiver Driver)と併せて読むことが必要となります。また、いわゆるCANスタックの一部としてCAN XLを使用するユースケース(SDU Type 1: content based addressingによるCAN XLフレームの送受信およびSDU Type 3: Classical CAN / CAN FD mapped tunnelingによる、CAN 2.0(Classic)/FDフレームをCAN XLフレーム内に収めての送受信)だけではなく、Ethernetスタックの一部としてCAN XLを使用するユースケース(SDU Type 5: IEEE 802.3 Ethernet mapped tunnelingによる、Ethernetフレームの送受信)など、CAN XLの5種類のSDU Typeに対応しています。

 ただし、SDU Type 2: Node AddressingおよびType 4: IEEE 802.3 Ethernet TunnelingはComplex Driver(CDD)による利用に限定されるなど、まだ幾つもの制限事項があります。新機能の導入は、実際製品に機能実装してみて初めて分かる問題の解決(「使えればよい」にまで持っていく段階)だけではなく、実用段階を経て見えてくる使い勝手の改善も行われていきますので、安定までにはある程度の期間がかかることでしょう※2)

※1)CAN XLの概要を紹介したWebサイト

※2)過去のPartial Networking導入を振り返りますと、2011年のCP R4.0.3での導入から、2014年のCP R4.2.1でのひとまずの安定化を経て、2020年のR20-11でのVNSM対応拡張(本連載第17回を参照)までを見れば、安定して使えるようになるまでに数年、使い勝手の改善も含めたら10年近くかかることもあります。「それは時間がかかりすぎる」とお考えになるかもしれませんが、自分たちが使う機能なのであれば、標準化活動に何らかの形で参加、フィードバックを行うことで、「自分たちが使いやすいようにしていく」ということが欠かせません。他社主導の標準化活動により解決されることを、指をくわえてひたすら待つということでは、ご自身のユースケースでの改善を期待するのは、そもそも少々無理があります。

 APでも、TPS ManifestにCAN XL経由のEthernet tunnelingや、CAN固有のNetwork Management(CAN XLを用いたEthernet tunnelingの場合、UDP NMではなくCAN NMを使用)に関する記述が追加されています。

 なお、CAN関連のISOについては、CANコントローラー部分に対応するISO 11898-1が、CAN XLを取り込むために改訂中です。2021年8月28日付でCD(Committee Draft)承認の段階(stage 30.99)まで進みましたが、2023年に入りProject Cancelled(2023年1月4日付でstage 30.98)となり、その後2023年1月17日に再びCD承認を経て、現在はDIS(Draft International Standard)が購入可能な状態になっています(2023年7月3日付でstage 40.20となり、12週間のDIS投票期間に入りました)※3)

 また、高速CANトランシーバー部分に対応するISO 11898-2も、既にDIS投票が2023年2月3日に締め切られています(Stage 40.60)※4)

 CAN XLにおいて、CANやCAN FDと上位互換でより高速かつ長大なCAN系フレーム授受とEthernetフレーム授受との使い分けや利用頻度、また、車載イーサネットとどのように使い分けられていくのか、今後の動向が気になるところです。

※3)ISOのWebサイト(ISO 11898-1改訂状況、データリンク層および物理的信号):キャンセルされたCDおよび現行のDIS(2023年8月14日時点)

※4)ISOのWebサイト(ISO 11898-2改訂状況、高速媒体アクセスユニット):現行のDIS(2023年8月14日時点)

 なお、FlexRayの利用についてはあまり聞かなくなりました。しかし、私が一部文書の執筆責任者となっているLINについては、地域的な差はかなりありますが引き続き利用されている模様です。LINがベースとなっているSAE J2602は近年改訂が行われましたし、ISO 17987の各パートも現在改定が進められています※5、※6)

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