続いて、日本弁理士会 知財制度検討委員会 委員長の中尾直樹氏は「AI利用技術の基本と構成」について紹介した。
AI利用技術は、前工程の「ユーザー入力」と後工程の「装置出力の確認」に挟まれる形で「AI利用装置」があるという構成が基本になる。AIが便利な技術ではあるものの、中でのどのような処理が行われているか分からないブラックボックスであるため、不適切な出力や情報漏えいといったリスクを伴う。
ただし、AI利用装置自体も、ユーザー入力をより効率良くAIに学習しやすくするための「入力情報生成」と、アルゴリズムそのものとなる「AI」、そしてAIからの出力情報に対する処理を行ってユーザーにとって使いやすいものに変える「出力情報処理」で構成されているという。中尾氏は「AI利用装置の全体をAIだけで作ろうとすると、入力情報と出力情報の組み合わせを極めて大量に用意する必要がある。しかし、入力情報生成と出力情報処理をうまく組み合わせることで、より使いやすいAI利用装置を開発することができる」と語る。
中尾氏は、「A社の記事をB社風の記事に変更する」という「作風変更AI」というAI利用装置を例題に、入力情報生成と出力情報処理の役割について説明した。この作風AI変更AIは、A社の記事から記事を構成するのに必要な固有名詞や事実関係などを抽出する「情報抽出AI」と、情報抽出AIによって抽出された情報を用いてB社風の記事を生成する「文章化AI」という構成であれば、A社の記事を入力したらB社風の記事が出力されるAIを開発するよりも効率的な構成になるという。この他に、「レポート作成AI」や「絵画生成AI」も例に挙げて、入力情報生成と出力情報処理によって効率的なAI利用装置を構築できると指摘した。
2016年からの第3次AIブームに入って、国内でもAI関連発明の特許出願が急増している。このうち、いわゆるAIアルゴリズムそのものとなるAIコア発明とされる「G06N」が付与された特許は半分以下にすぎない。中尾氏は「AI関連発明の多くは、教師データや入力情報生成、出力情報処理の方が多い。たとえAIコア発明でなくても、ユーザーにとってはAI利用装置がブラックボックスなのであり、そのリスクを軽減する入力情報生成や出力情報処理も有用な発明といえるだろう」と述べている。
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