人とくるまのテクノロジー展2023

“クルマの中のライバル”ではなく、クルマの外を見たイノベーションを脱炭素(2/2 ページ)

» 2023年07月05日 06時00分 公開
[福岡雄洋MONOist]
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脱炭素時代の地域貢献の在り方

 講演では1つの事例として調達を話題にした。自動車や部品の生産に欠かせないエネルギーコストが高騰する局面では「エネルギーをいくら値切れるかが調達担当者の腕の見せ所だった」(中田氏)という。ただ、カーボンニュートラルの実現に向けた生産活動においては「安い化石燃料の電気を使うのではなく、少々高くてもグリーンな電気を使う方が結果として製品価値だけでなく株価も上げる可能性がある。調達の人はこれまでのやり方で頑張ってはいけないぐらい、プラスとマイナスが逆になる」と触れた。

 もう1つの事例として、地域社会とのつながりを解説した。自動車関連製造業の地域貢献活動と言えば、「地元での雇用、納税、社会科見学の受け入れなどで済んだが、いま社会が求めているのは地域の人々の暮らしとつながること。啓発的な“良いことをやっています”ではなく、持続可能性をキーワードにして具体的につながることが求められる」と指摘した。

 そのつながりの1つとして紹介したのが、地域のエネルギーシステムとして貢献することだ。カーボンニュートラルの実現に向け、各企業が自社工場に大規模な太陽光発電システムを導入するケースが増えている。これを活用するもので、中田氏は「昼間は工場の操業で電力を使うが、夜間は地域で共有できるようにする。EVの充電に使ってもらうとか、災害時には工場の蓄電池の一部を提供すれば地元の人の命を救うことになる。また、水を電気分解して水素を生成し、その水素で合成燃料を作って内燃機関のエンジンを走らせる。こうした取り組みの一歩が工場の屋根を使ってできる」と語った。

EVはエネルギー効率の勝ち組

 中田氏がラジカルイノベーションの将来の成果と見据えているのが、EVを中心したエコシステムが自動車という枠を超え、スマートシティーやサスティナビリティ社会を構成する「システムオブシステムズ」として機能することだ。先述の通り「今後、勝負するのはクルマの中のライバルではない」と語ったのはこのためだ。例えば、EVが持つ電力は社会エネルギーシステムの一部であり、それが地域社会を支えるベース電源の1つとなる。結果として持続的な社会を実現する基盤になるというわけだ。

 中田氏は「自動車関連の製造業だからできる先鞭的な投資を地域のために行うことが太いパイプになり、それが日本で脱炭素やSDGs、エネルギーセキュリティの要になる可能性が、実はこれからのEVに秘められている」と話す。

 EVの価値の1つがエネルギー効率の高さだという。EVは4〜5台で内燃機関車1台分のエネルギーや燃料消費量と同程度となるとしている。中田氏は「EVは今までの内燃機関とは違う。エネルギー効率から言っても勝ち組だ。EVは将来のものであり、今の化石燃料由来の電力と比較してダメだというのは拙速。それでやめるのはあまりにももったいない」とみている。

 現在、エネルギー供給量は減少の一途をたどっており、電力について中田氏は「電化が進んでいるものの、それでもピークと比べると今は12%ほど減っている」と指摘する。このエネルギー需要の減少をネガティブに捉えるのではなく、「量ではなく質を重視し、総需要の減少をポジティブに捉えることが大事」(中田氏)だという。だからこそ、EVによるラジカルイノベーションを社会システム全体を構成するシステムオブシステムズとしてインテグレーション(統合)することが重要だと強調する。

きめ細かなデータベースの整備を

 その実現に向けては課題も少なくない。EVをエネルギーシステムと連携するために欠かせない、地域のエネルギー需給のデータベースの整備などが乏しいためだ。地域区分としては47都道府県や1741の市区町村、そして100〜1000m単位のデータが必要になるという。時間軸のデータも必要だ。「1年単位の統計資料ではなく、秒単位の詳細なデータが欠かせない」と中田氏は指摘する。

 中田氏が描くエネルギーシステムの統合戦略が「電力・交通データ連携型地域エネルギーマネジメントプラットフォーム」の設計指針の構築だ。この構想が実現できれば「石油屋がガソリンを、電気屋が電気を、ガス屋がガスを売るような一方通行ではなくなる。これからはインテグレーションで、単位の違ったものを合わせ込んで1つの集団にまとめることで、何かの不都合でできなかった業界の乗り入れが可能になる」という。

 この構想の中で自動車業界には大きな期待を寄せており、「電気や水素というものを使ってチャレンジしていくこと。そこには大きな活躍の舞台が待っている」とエールを送る。

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