複雑性/不確実性に対応するためソフトウェア開発業界で広く採用されている「アジャイル開発」の製造業での活用法を紹介する本連載。第4回は、製造業でソフトウェア開発に従事していた筆者の経験を踏まえて、アジャイル開発の導入がどのような未来につながるかを説明する。
こんにちは。本連載の第1回ではアジャイルの定義や向いている領域、第2〜3回では製造業のアジャイル開発導入におけるポイントについて紹介してきました。
今回は、私が製造業の中でソフトウェア開発をしていたときに起きた、繰り返したくない過去の経験を踏まえて、アジャイル開発を導入することがどのような未来につながっていくのかについて説明していこうと思います。
私は2000年後半から製造業で幾つかの製品開発に携わってきました。開発を終える度に、顧客からは「思っていたものと違う」といわれ続けました。
社内でたくさんのレビューを受けて、定められた品質で、仕様通り、期日通りに誇りを持ってプロジェクトを完了させたとしても、顧客には喜んでもらえない。このギャップに頭を抱え続けていました。
開発が計画通りに進んだとしても、顧客が喜ぶものを作ることができなければ何の意味もありません。
またこの頃からおよそ10年の間に、日本の製造業、特に電機業界では大きな変化があったと記憶しています。
1インチ1万円を目指していた液晶テレビの価格がそこからさらに3分の1程度まで値下がりし、日本メーカーだらけの携帯電話機業界にアップルの「iPhone」が飛び込んできました。さらに10年が経過すると、Androidが搭載されたテレビやチューナーレスのテレビ(テレビの言葉だけが残った別の製品とも言えますね)が登場します。携帯電話機はスマートフォン一色になり、インターネット上でリアルタイムでスポーツ観戦できるのが当たり前の時代となりました。
2000年以前、日本はさまざまなイノベーションを起こして来ました。私はその中でも世界をトップでリードし続けていると感じていた製造業に憧れて足を踏み入れました。しかし2000年以降、世界ではさまざまなイノベーションが起きていた一方で、家電のシェアに目を向けると日本の製造業のシェアは年々下がっていました。
世界で起きたイノベーションやそのスピード感と、日本で起きていた「思っていたものと違う」といわれる開発。私は、この2つが同時期に起きていたのはなにか関係があると考えました。
では「思っていたものと違う」といわれる開発の裏では一体何が起きていたのか。それらを思い起こしてみたところ、特に印象的だったことが以下の2つです。
顧客となるユーザーは納品する企業のそのまた先で、非常に遠い存在でした。そのため、仕様から挙動を決めたり、リリース前に開発したソフトウェアをレビューしたりするのは社内のメンバーのみでした。
このような状況では、ユーザーの期待とギャップがあったとしても、リリース前に開発者がそのギャップに気付くことは非常に困難でした。またユーザーを知らない状況で「付加価値」を考えることはさらに難しいものでした。
結果として、ユーザーが期待していたものが開発されることは少なく、さらにユーザーの期待に沿っていなかったことが半年から1年も後になってやっと判明するのです。
安くてもすぐに壊れる製品であれば顧客は買ってくれない。だから私たちは品質を大事にし続けよう。2000年代は高品質であることを自分たちの魅力として大きく掲げていたと思います。
一方で、品質を高くすることに注力するあまり、誰にとっての品質なのかという点が置き去りになっていったようにも感じました。結果として、これが高品質な製品を作っても売れない、新しいイノベーションが起きにくいといった状況を生み出したのではないかと思います。
この出来事は、品質についてあらためて考えるきっかけとなりました。
あらためて振り返ってみてもこれらのことは本当に残念であり、今後繰り返したくないと強く思っています。
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