製造業の人材を取り巻く環境は近年大きく変わってきています。製造業は日本のGDPの20%を占める基幹産業です。そして、技術集約的/労働集約的な産業でもあります。一方、少子高齢化や人材の流動化などの影響で人材獲得競争が激化し、人手不足に悩む企業が増えています。
また下の図にも示した通り、技術革新や脱炭素など、モノづくりを取り巻く環境にさまざまな変化が生じており、こうした変化に対応するための人材の需要が高まっています。
経済産業省は、2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を発表し、人材戦略に関する変革の方向性を提示しました。「人的資本経営」という考え方のもと、経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みが必要不可欠になるという趣旨です。人的資本経営は人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげるような経営の在り方を指します。
人的資本経営という考え方は製造業においても重要です。対外的な労働市場からの人材獲得はもちろんですが、社内の働き手に対して積極的な投資を行うことで、自社の人材を育成していくことが強く求められています。
人材育成を効果的に進めるためには、大前提として自社が抱える人材データの把握が必須です。筆者は人材データのうち、特にその人の持つ技能や知識などを示すスキルデータが重要だと考えています。そこで、組織的なスキルデータ活用を目的に従来型の力量管理を発展させたのが「スキルマネジメント」です。
当社では、スキルマネジメントを次のように定義しています。
スキルマネジメントは、組織や従業員が持つスキルデータを継続的に収集、蓄積し、人材マネジメントに活用することで事業価値の向上、品質・生産性の改善、組織の活性化を実現すること
変化の激しい外部環境の中で競争力を高めるためには、場当たり的な人材育成ではなく組織全体として従業員のスキル状況を把握し、戦略的に人材育成を実施する必要があります。従業員のキャリア形成を踏まえた、個人に最適化した育成計画も必要です。これらを実現するためには、スキルデータの活用が肝となります。
スキルデータを活用するためには、自社に関連する「スキル」を見極め、マネジメントしていく必要があります。その際にはスキルを「量」と「質」という観点から考えることが大切です。
量は組織内の従業員が保有するスキルの総量です。教育/訓練や実務経験を通じて、組織全体での保有スキルは増えていきます。人手不足の状態は、いわば従業員の保有するスキルの総量が減少トレンドにある、という見方もできます。
質は従業員が保有するスキルの中身や精度です。スキルは、経年により重みづけが変わるものがあります。論理的思考力やコミュニケーション力のように、いつの時代も重要性の変わらないポータブルスキルもあれば、事業/組織戦略の変化に伴い重要度が変化するスキルもあります。
例えば、自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、サービス/シェアリング、電動化)の文脈で、「ハードウェア設計と共にソフトウェア設計の重要性が増している」というお話をよく伺います。社内にソフトウェア開発を担える人材が少ないのであれば、何かしらの方法でスキル開発を進めていく必要があります。
それらのスキルの認定条件としては、単なる座学の受講だけでは不十分です。本質的には一定の実務経験でのスキル発揮を認定条件とすることで、評価結果の質は上がります。
このようにスキルは量と質の両方をマネジメントしていきます。自社に必要なスキルを定義し、継続的に評価/育成/維持することで、自社のスキル「量」を増やすこと。そして、維持/開発すべきスキル自体を定期的に見直し、事業に必要なスキルの「質」を担保すること。いずれも一朝一夕に運用を定着することはできませんが、時間がかかるからこそ、“今”スキルマネジメントの構築を考えることが求められています。
それでは、スキルマネジメントを開始するために、まず何から取り組むべきでしょうか。
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