岡氏に続いて会見に登壇した夏井氏は、オムロンが取り組みを進めている仮想化制御プラットフォームについて説明した。
夏井氏はまず、国内工場における装置や設備の歩留まり、稼働率が極めて高いにもかかわらず、IMF(国際通貨基金)の調査などで示される生産性の成長率は海外に比べて極めて低いことを挙げた。その原因については「IoT(モノのインターネット)と呼ばれる現場データの活用が不十分なためである。言葉を換えればデジタル化の遅れだ」(夏井氏)と指摘する。
オムロンはこの問題を解決するために、現場データの活用だけでなく、これまでハードウェアとして提供してきた機能をソフトウェアで提供することにより大幅な生産性向上につなげようとしているのだ。夏井氏は「実際に現場にたくさんあったハードウェアをソフトウェア化し、1台のIPCの仮想化環境の上でソフトウェアとして動かすことで、効率良くメンテナンスができたり、新しい機能を開発できたりする。加えて、複数のハードウェアを接続していたネットワークの省配線化にもつなげられる」と説明する。そして、これらの施策を「ソフトウェアドリブン」として提案していきたい考えだ。
このソフトウェアドリブンにおいて課題になるのが、現場にソフトウェアを効率的に投入するための方法だ。夏井氏は「やはり何らかのプラットフォームが必要になる。そこで注目したのがDocker/Kubernetesを用いてアプリケーションをコンテナ化する仕組みだ」と述べる。これによって「作業者は、クラウドにあるオーケストレーションオペレーターからいつでも、どこからでも、指先一つで思いのままに、現場のIPCに制御プログラムをデプロイしたり、入れ替えたり、状態をモニタリングしたりできるようになる。これまで作業者が現場を走り回って対応していたのと比べて、理想的な新しい制御環境になる」(同氏)という。
オムロンはIPCをはじめとするOT(制御技術)の専門家ではあるものの、Docker/KubernetesやコンテナといったIT(情報技術)はそうとはいえない。そこでさまざまなIT企業をパートナーとして仮想化制御プラットフォームの構築を進めてきたが、コンテナ基盤についてはレッドハットのOpenShiftの採用を決めた。夏井氏は「当社の顧客にはエンタープライズクラスの企業もおり『商用ベースでなければ使えない』という話もある。こういったことを含めて、レッドハットのコラボレーションには大きな意義があった」と強調する。
レッドハットとの協業では、クラウドからデプロイした3つのコンテナをDocker Engine上で動作させ、ジェスチャー認識でEtherCATによる制御を非接触動作させるPoC(概念実証)デモを展示会向けに開発するなどしてきた。
2023年度からは、実際の顧客となるオペレーター目線で仮想化制御プラットフォームの見せ方を検討していく方針だ。コンテナをGUIで管理するオーケストレーションツールに加えて、顧客の規模感に合わせたスケーラビリティも重要になってくるという。「エンタープライズクラスの企業の工場であればOpenShiftでも問題ないが、クラウドにつなげずにエッジである工場内に限定して運用するような規模感であれば、エッジデバイス上でのコンテナ運用を可能にする『Red Hat Device Edge』の活用が期待できるだろう」(夏井氏)。
この他にも、オムロンが重視する現場のリアルタイム制御や時刻同期データの取得についても、コネクティビティを確立して仮想化制御プラットフォームと連携させていく方針だ。プラットフォーム化に伴うセキュリティの確保もアイデアを検討していく。夏井氏は「OpenShiftだけでなく、レッドハットのスキルや経験を参考にしていきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.