本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は農業向けAIロボットを開発する「輝翠TECH」を取材しました。
本連載はパブリカが運営するWebメディア「ものづくり新聞」に掲載された記事を、一部編集した上で転載するものです。
ものづくり新聞は全国の中小製造業で働く人に注目し、その魅力を発信する記事を制作しています。ものづくり企業にとって厳しい環境が続く中、伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。
「輝翠TECH」は「キスイテック」と読みます。イスラエル生まれ米国北東部育ちのTamir Blum(タミル・ブルーム)さんが創業したAI(人工知能)ロボットのハードウェアスタートアップです。農家の方々の役に立ちたい、という思いで農家の収穫作業を自動搬送ロボットで支援する取り組みをされています。
農家の搬送ロボットというと、一見、それほど複雑な機構は必要でないように思えます。しかし、輝翠TECHのロボットは、(1)りんご農園など不整地(平たんではない地面)を安定的に走行する、(2)あらかじめ地図データを持たずにロボットが自分で学習しながら安全に走行する、といった機能を持ちます。ボタンを押すだけで、収穫したりんごをまとめて保管する場所まで自動で運んでくれます。人が操縦するわけではありません。
こんなロボットを宮城県仙台市と千葉県千葉市の2拠点で開発するタミルさんはどのような人なのでしょうか? ものづくり新聞取材班は会社のある東北大学連携ビジネスインキュベータに伺いました。記事後半では、タミルさんが開発する農業AIロボット「ADAM(アダム)」を千葉県の果樹農園で走行させる実地検証の現場も取材しています。
タミルさんの開発するADAMは、車輪で走行する車両型の農業AIロボットです。
4つの大きな車輪にそれぞれモーターが接続されており、1つずつ車輪が独立して動作します。車輪の適切な大きさは実証実験で確認しつつ、1号機の段階から大きな車輪を採用しています。傾斜のある果樹園でも坂を登ることのできるパワーがあります。
車輪の制御はコンピュータで行っています。大きな電源バッテリーが1つ搭載されており、この電源により車輪とコンピュータを動作させています。コンピュータの操作パネルは、できる限り少ない動作で済むよう工夫されています。プロトタイプの2号機の場合、5つのボタンしかありません。
車体には合計3台の画像カメラが取り付けられています。この画像カメラが周辺情報を取得し、障害物がないか、人がいないかどうかを判定しています。逆に人を検出し、そちらに向かって動くこともできます。
このロボットには取り付けられていませんが、実際の果樹園では機体の上にカゴを乗せ、りんごなどの果物を入れることができます。
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