浪江町で実証中の水素サプライチェーンの仕組みは、そのまま規模をスケールすれば実社会に実装できるのか。後藤田氏は「基本的にはそう考えているが、今後、純水素型燃料電池の1基当たり電力容量が増加していくことへの期待込みではある」と説明する。
仮に容量増加が順調に進まなかった場合、日立製作所などが開発する「水素混焼発電機」を水素製造地点の付近に設置して、そこで発電した電力を配電網で送電する形で支援するといった選択肢も候補に浮上するという。水素混焼発電機はCO2排出量が少ないため、工場で非常用電源などとして用いられるディーゼル発電機からのリプレース需要を集めている。
日立製作所の水素混焼発電機は短期的には250kWの出力が可能だ。工場などの電力の需要量に応じて、純水素型燃料電池などと組み合わせて電源として活用することもできる。ここに植物性由来の廃食油などを原料とするバイオマス燃料を加えて活用することも考えられるが、その場合は同燃料のサプライチェーンを新たに構築する必要がある。
「オールマイティーな電力システムは存在しない。個別に需要家の事情や各種制約条件などを考慮した上で、個別に最適な水素サプライチェーンを構築することが大事だ。その中で、電力の需給バランスを調整するEMS(エネルギーマネジメントシステム)は非常に重要な役割を果たすだろう」(後藤田氏)
なお今回の実証実験で使用する水素はグリーン水素ではないが、将来的にFH2Rと連携してグリーン水素を活用する方式などを検討していく可能性もあるという。
カーボンニュートラル実現を迫られる産業界で、水素エネルギーは今後、活用の広まりを見せていく可能性がある。だが現時点では、水素は化石燃料などと比べた際の調達コストの高さが課題視されるなど、本格的な普及に向けてはまだいくつものハードルを乗り越えてなければならない段階にある。
また、後藤田氏は「水電解装置など水素関連市場全体についていえば、まだまだ成熟していないように思う。水素社会の実現に向けて、水素を作る企業、それに必要な機器を作る企業、水素を供給する企業が力を合わせて連携しつつ、水素関連市場を形成しようとする姿勢が必要だ」と指摘する。
水素は単に「クリーンなエネルギー」であるだけでなく、蓄電池などと比べると長期かつ大規模にエネルギーを貯蔵できる媒体としてもすぐれている。水素エネルギーの産業利用の可能性と、それを安定的に供給する仕組みづくりの議論と実証が今後どう進むのか。時間をかけて見定める必要がありそうだ。
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