パナソニック ホールディングス、パナソニック コネクト、立命館大学の3者は、視覚と触覚のマルチモーダル情報を使ったサブミリ(1mm以下)の精密位置決め技術「TS-NVAE」を開発した。同技術を用いて協働ロボットによるUSBコネクターの挿入作業を行ったところ、成功率100%、位置決め精度0.3mmを達成したという。
パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD)、パナソニック コネクト、学校法人立命館(以下、立命館大学)の3者は2022年10月3日、視覚と触覚のマルチモーダル情報を使ったサブミリ(1mm以下)の精密位置決め技術「TS-NVAE(Tactile-Sensitive NewtonianVAE)」を開発したと発表した。同技術を用いて協働ロボットによるUSBコネクターの挿入作業を行ったところ、成功率100%、位置決め精度0.3mmを達成したという。パナソニック コネクトが製造/物流/流通分野で展開するサプライチェーンマネジメント事業のうち精密組み立てや梱包、部品供給などでの応用に向けて、2030年の実用化を目指して開発を進めていく方針である。
TS-NVAEの開発では2つの新技術が大きな役割を果たしている。1つは「潜在空間を用いたマルチモーダル情報の統合と比例制御」だ。視覚情報と触覚情報のセンサー信号は性質が大きく異なるため、これらをマルチモーダル情報として統合し学習するハードルは高い。そこで用いたのが、視覚情報と触覚情報の関係性を学習できる「潜在空間」と呼ばれるサイバー空間である。深層学習によって得られた潜在空間を可視化すると、触覚センサーの出力から推定された挿入位置(USBプラグがソケットの真上に位置する時の潜在変数)を潜在空間に写像することができる。
機械学習のアルゴリズムを工夫することで、潜在空間の性質をコントロールできる。特に、観測データからの特徴抽出と潜在空間における動力学的挙動を同時に最適化する手法は「世界モデル」と呼ばれ、画像のような超多次元データを柔軟に扱えるロボットのAI(人工知能)制御技術として近年注目を集めている。TS-NVAEも世界モデルの一種であり、制御にとって重要な情報であるロボットの手先座標に相当する情報が潜在変数として獲得できるように学習する。具体的には、潜在空間において実世界におけるニュートンの運動方程式に相当する関係式が成立するような制約を与えて学習することで、潜在空間の獲得が可能になった。これによって、潜在空間において比例制御を直接適用できるようになった。
「潜在空間を用いたマルチモーダル情報の統合と比例制御」は、深層学習とPID制御に代表される従来の制御技術の架け橋となる技術だという。つまり、パナソニック コネクトが表面実装機などのFA事業で培った高速/精密なロボットの動作に、マルチモーダルセンサー情報の活用や非定型作業への適応などの柔軟性を与え得る。これにより、ロボットの応用先を、工場の定型作業のみならずサプライチェーンのさまざまな現場に広げることが期待できるとしている。
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