サステナブルなモノづくりの実現

超大型3Dプリンタを製造現場へ、コミュニティー主導型モノづくりで挑戦を続けるExtraBold越智岳人の注目スタートアップ(5)(2/3 ページ)

» 2022年08月22日 09時00分 公開
[越智岳人MONOist]

理想の3Dプリンタを目指し、売る側から作る側へ

 ExtraBoldは2017年12月に創業。創業者の原雄司氏は大手通信機メーカーで試作現場やCAD設計を経験。その後、金型用CAD/CAMメーカーを経て、3Dデータと3Dプリンタに関わるベンチャー企業の経営に複数携わる。30年以上にわたって3Dデータ業界に関わってきた。2010年代前半の3Dプリンタブームの時期には、3Dプリンタの販売代理店の立場から、さまざまなメーカーの3Dプリンタに触れる。その際に感じた欠点がExtraBoldの創業につながっていく。

 3Dプリンタブームの当初、金型では再現できない複雑な形状を1個から製造でき、3Dデータのやりとりで消費地に近い場所で製造できるなど、3Dプリンタに対する期待は大きかった。加えて、CNCによる加工と比較して、FDM方式の3Dプリンタは樹脂ゴミの排出量も少なく、コストと環境面でもメリットは大きいはずだった。

 しかし、実際には材料の選択肢が少なく、造形の質やスピードも製造現場で使用するには十分なレベルに達していないなど、他の工作機械と比較して使い勝手の悪さが目立った。結果的に試作などの限定的な用途のみに活用され、素材もSLA(光造形)方式など廃棄物の多い造形方式にシフトしつつあった。

 原氏はこういった従来の欠点を払拭(ふっしょく)する3Dプリンタを自ら開発することを決意。素材リサイクル可能な大型3Dプリンタ開発に特化したExtraBoldを立ち上げた。

 プロジェクト開始当初の課題となったのは設計、開発だ。ソフトウェアや3Dのテクスチャー技術の開発、完成品としての3Dプリンタの販売の経験はあった。原氏はExtraBoldに先行して大型3Dプリンタを開発していたベンチャー企業と試作機を共同で開発する道を選ぶ。「試作零号機」が完成したのは2018年6月。およそ半年で完成したが、理想とは程遠かったという。

「試作零号機」は短期間で完成したものの、課題が多く日の目を見ることはなかった 「試作零号機」は短期間で完成したものの、課題が多く日の目を見ることはなかった[クリックで拡大] ※撮影:筆者

 大型の造形物が出力できるよう、材料となる樹脂はフィラメント状ではなく、ペレット状のものを使用できる点はクリアしていた。しかし、それ以外は既存の3Dプリンタをそのまま大きくしたような仕様になり、造形の精度や品質、使いやすさには課題が残った。造形物の反り返りを抑えるために装置全体をダンボールのケースで覆い、市販のヒーターを使って造形庫内の温度を一定に保つなどの工夫も凝らしたが、製造業の現場で急ごしらえの対策は通用しない。

 共同で開発していたベンチャー企業は、実験/試作用の3Dプリンタをオーダーメイドで製造するという事業モデルを目指していた。一方で、ExtraBoldが目指しているのは製造業の現場で日常的に使用される量産機の開発だ。両社のギャップは大きかった。最終的に両社は2019年に提携を解消し、おのおのが独自の3Dプリンタを開発する道を選んだ。

 原氏はあらためて開発体制を作り直す。パートナーに選んだのは、3Dプリンタに知見のある企業ではなかった。工作機械メーカーや射出成形メーカーなど、当初目指していた製品の品質を熟知する企業とチームを組んだ。

 「前回の試作機から受け継いだものはなく、工作機械の品質基準で一から作り直しました。最も苦労したのはスクリューヘッドです。技術的な難易度の高さに加えて、スタートアップとの取引に慎重な企業も多く、いろいろな企業に訪問して頭を下げてようやく実現しました」(原氏)

 試作レベルの機械を1台作るのは容易だが、工場で稼働できる品質を担保し、リサイクル素材も利用でき、量産も見据えた機械を作るとなると難易度は一気に上る。実際、開発を断念しようと考えたことも何度かあったという。それでも諦めなかったのは、製造業関係者らの関心の高さだった。

 「大手の工作機械メーカーからも見学が多く、自分たちのコンセプトに対して共感してくれる声もたくさん寄せられていました。製品化できれば製造の現場に普及することは目に見えていました。製造現場のオペレーターがマシニングセンタやCNCと同じように扱える3Dプリンタが普及すれば、日本でもアディティブマニュファクチャリングによる製造が加速するだけでなく、大量生産/大量廃棄から脱却したモノづくりにも貢献できるという確信がありました」(原氏)

 捲土(けんど)重来の思いで開発した2代目の3Dプリンタ「EXF-12」は2020年4月に完成。創業から2年半弱、ようやく量産に向けた「試作初号機」と呼べる品質の製品が誕生した。EXF-12は「試作初号機」と銘打っているものの、量産を見据えた体制を敷いている。農業機械メーカーの小橋工業(岡山)傘下のKOBASHI ROBOTICSが量産を担う。

 「全て自社生産にこだわるのではなく、各部品やモジュールで実績のある企業との協力関係が肝だと思います。組み立ても工作機械の量産機を組み立てている企業に委託することで、品質にこだわることができます。ファブレスで生産機能を内部に持たない分、私たちは開発とサポートに注力できる体制が組めています」(原氏)

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