さらに、データ生成量の増大は、データセンターにつながる通信用のケーブルなどの電力消費も加速させる。大野氏は「既存の銅線ネットワークによる電力使用量は、やがてデータセンターの電力消費量を追い越してしまうと推測される。低消費電力の光ネットワークの研究開発を進める企業があるが、こうした観点から見ても必要だと感じる」と説明する。
局舎や基地局など、よりネットワークに近い施設でのGHG排出量削減も重要になる。「ネットワークの仮想化技術も進展しているが、これに応じてソフトウェアの動作を支えるハードウェアの役割も増していく。当社としても取り組む余地が大きい」(大野氏)。実際にインテルは2022年2月、通信局舎のCO2排出量削減に向けた覚書をKDDIと締結している。AI(人工知能)を活用して通信局に設置された通信用サーバのCPUを制御し、全体の消費電力低減を行う他、液浸冷却装置の導入に向けた検討を進めているという。
周知の通り、インテルの半導体製品はPCにも多く搭載されている。同社はPCメーカーなどと協働しつつ、半導体製品の新たなレファレンスデザイン開発も進めている。具体的には、ディスプレイのエネルギー消費効率を向上させる仕組みづくりなどに取り組む。また、「当社の扱うCPUは高性能な分、相応の電力を使用してしまう。エネルギー消費効率向上のために開発を進め、2030年までにサーバ向けプロセッサーと共に従来比10倍の効率化を目指したい」(大野氏)という目標もある。
加えてサステナビリティ推進の観点から、廃棄物を出さない、リサイクルしやすい素材の採用も進めている。「エネルギー消費効率の改善に加えて、バイオベースの基板を用いて、リサイクル時に全ての材料を分解して廃棄物を減らすレファレンスデザインを作成した。こうした領域の取り組みはデル・テクノロジーズとも共同で行っている。今後はボード基板、PCメーカーなどとも協議を進めたい。現時点で話せるものはないが、マザーボードやシステムレベルでの取り組みも検討している」(大野氏)
スコープ3の削減は、自社サプライチェーンをはじめ各種ステークホルダーを巻き込んだ取り組みが不可欠だ。インテルの場合、データセンターもネットワーク、PCメーカーなど多種多様な企業と協働する必要がある。だが、全体の方向性を調整するのは容易ではない。
「例えば、PCの場合だとシステム開発は欧州や中国の企業が強いものの、ハードウェア製造は台湾や東南アジアの企業が、部品供給は米国企業がそれぞれ強いといったケースがある。その中にはネットゼロを宣言している企業も多いが、そうではない企業も存在する。いかに当社と同じ方向を向いてもらうか。これは1つのチャレンジになる。目標達成に向けて、今後さらに積極的に企業パートナー数を増やしていく方針だ」(大野氏)
ここまでスコープ3の話題を中心に扱ってきたが、当然、インテルはスコープ1、2についても取り組みを進めている。
スコープ1については、米国グリーンビルディング協議会が定めたLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)認証プログラムに合致し得る、新たな製造事業施設の建設を検討中だ。環境に配慮した化学物質の特定、それらの除外装置開発に向けた異業種連携による研究開発も推進している。スコープ2については、2030年までにグローバル拠点全体で再生可能エネルギー使用率を100%にする。省エネ対策のため、約3億ドルの投資も行う。
インテルはGHG排出量の削減にとどまらず、環境負荷低減に向けたさまざまな取り組みを展開中だ。インテルは2020年に「Responsible」(社会的責任)、「Inclusive」(受容性) 、「Sustainable」(持続可能性)、「Enabled」(実現能力)に関する企業目標で構成される「RISE戦略」を発表した。こうした内容も踏まえて、同社に関与するステークホルダーと協働しながら目標達成を目指す。
「例えば、半導体製造のウェハ製造工程では大量の純水を使用するが、インテルの製造工場がある米国アリゾナ州では降水量が少なく、水資源に乏しいという問題がある。このため工場で使用した水を、地域の生活用水に100%再利用する仕組みづくりに取り組んでいる。同様の仕組みを今後、米国オハイオ州やドイツの工場でも展開する予定だ」(大野氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.