このAppSheetを導入することで、「デジタルの民主化」を目指そうとしているのがLIXILである。同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するデジタル部門では、コロナ禍を経て日々高まり続ける社内のデジタル化に向けた要求に対して取捨選択しなければならない状況にあった。LIXILの岩崎氏は「デジタル部門のリソースの限界値がLIXILの成長の阻害要因になってしまった。そこで、デジタル部門だけで全てのアプリを開発するのではなく、発想を変えて「デジタルの民主化」にフォーカスしようと考えた」と語る。
LIXILは既にデジタル部門でかなりの人員を抱えているが、その人員増強を図るのではなく、非デジタル人材が自ら必要なデジタルツールを使って活用するというのが「デジタルの民主化」の狙いである。同社は既にGoogle Cloudのビッグデータ分析サービス「Big Query」を利用しており、これによって「データの民主化」は可能な状況にある。そこでさらに、ノーコード開発環境であるAppSheetを活用することで「開発の民主化」を実現し、これらの掛け合わせで「デジタルの民主化」につなげようというコンセプトだ。「現場の改善を目的にデジタル部門に開発依頼がきていたが、その多くは簡単な要件のアプリケーションであることも分かっていた。そこで、ノーコード開発環境を導入すれば、改善をしたいと考えている現場が開発者となって自らの手で改善できるようになるのではないか」(岩崎氏)。
ただし「開発の民主化」ではアプリケーションが乱立する懸念がある。先述した“野良アプリ”の問題である。このことがリスクになるため、これまではデジタル部門がアプリケーションを開発する体制をとっていた。岩崎氏は「これを原点から変えるため、ある程度のリスクを認めて社員が自由に開発できるようにした。『自分たちでやっていいんだ』『困ったときだけデジタル部門が助けてくれればいい』というような意識変革を進めた」と説明する。
「デジタルの民主化」のプロジェクトは2021年4月にデジタル部門の数人でキックオフしてから具体的な制度設計を進めて、同年7月には50〜60人の経営陣向けに実際にAppSheetでアプリケーション開発を行ってもらうという形でのワークショップを開催した。「事業部のトップなどが実際にアプリケーション開発できるという事実は、現場への導入展開を進める上で重要なことだった」(岩崎氏)という。そして2021年10月から全社展開をスタートし、現在は開発アプリ数で約1万7000、開発者数で4000人弱という規模まで導入が進んでいる。
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