シード/アーリーステージのスタートアップは、プロダクト/サービスをローンチする前後の段階であり、リーンスタートアップを実践し、まさに試行錯誤しています。この時点では、プロダクト/サービスのコンセプトや技術力などが固まっていないことが多くあります。また、資金調達も未実施または序盤の段階であるため、資金力やリソースが不足していることが一般的です。
CVC(または事業会社)としては、人的、物的な事業リソースを提供することによって、スタートアップの成長加速に寄与できる場合が多いといえます。他方、戦略的リターンを目的に未成熟な段階のスタートアップに出資する場合、具体的なリターンとしては以下のものが期待できます。
(1)現時点では自社の既存技術との関係性は定かではないが、将来的に機会・脅威となり得る技術をモニタリングすることでノウハウを取得する
(2)大企業が開発したい技術は特定されているが、阻害要因・効率性の観点から、スタートアップへの投資を通じて特定技術を獲得する
(3)大企業が進出を企図する事業領域のビジネスモデルに関するノウハウを取得する
ミドルステージのスタートアップは、プロダクト/サービスをローンチし、少しずつユーザーのフィードバックを受けて、改良などを始めている段階にあります。技術面などスタートアップの具体的な課題が見えてきている段階です。
CVC(または母体の事業会社)としては、技術提供や特許などのライセンス提供を通じて、当該スタートアップの成長の加速に寄与することができる場合が多いです。ライセンスの対価を受領することとなりますが、スタートアップの資金力や事業規模を鑑みれば、この対価だけで十分な戦略的リターンを得たとはいえません。
そのため、対価そのものを得るというよりは、ライセンスを通じて協業関係を強固にしつつ、スタートアップを育成し、自社の顧客、または自社の売り上げ拡大に寄与するようなプロダクト/サービスの提供主体として、将来的に収益を獲得するということが主たる目的になります。
レイターステージのスタートアップは、主力のプロダクト/サービスが固まってきており、体制を整えつつ、売り上げと利益の拡大に向けてリソースを投下している段階です。ただし、事業は確立されつつあるものの、依然として知名度は低く、マーケティングが課題となるケースが多いといえます。
従って、CVC(または事業会社)は、自社の顧客基盤や物流基盤を提供することでスタートアップのプロダクト/サービスの拡大に寄与することとなるでしょう。この場合、スタートアップの成長が自社のプロダクト/サービスの売上拡大に寄与するようなスキームの構築が、戦略的リターンを大きく獲得する典型的なパターンになると予想されます。
なお、レイターステージのスタートアップは、第三者から知的財産権の侵害を理由に警告などを受けるリスクが増加します。CVCの場合は、出資先スタートアップが他社から知的財産権の侵害を理由に警告や訴訟提起を受けると、CVCの母体となる事業会社が保有する知的財産権などを活用して紛争解決の支援を行うことも考えられます。
そもそも、CVCの母体となる事業会社が多数の知的財産権を保有している場合には、無償、または比較的安価でライセンス提供を行うことも可能です。この点は独立系VCにはできないCVCならではの強みのあるサポートとなるはずです。
今回は、事業連携指針を踏まえつつ、事業会社によるスタートアップへの投資に際しての留意点の総論についてご紹介しました。次回からは、スタートアップへの投資時における契約上の留意点をご紹介いたします。
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山本 飛翔(やまもと つばさ)
2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
2016年 中村合同特許法律事務所入所
2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)/神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)
2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)/特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞
/経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー/スタートアップ支援協会顧問就任(現任)/愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師
2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)
「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)
『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)
「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)
「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)
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