それでは実際に、製造現場におけるモバイル通信※2)の導入状況やローカル5Gの認知状況、将来的な導入意向はどのような状況なのだろうか。総務省が2021年7月に公表した「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」※3)によると、全国の製造業のうち約70%の企業が、工場の設備としてモバイル通信を「導入している」と回答している。そのうち約56%がモバイル通信を「今後は増やしたい」と回答していることから、モバイル通信の「導入を検討している(約5%)」および「導入に関心がある(約10%)」企業まで含めると全体の約70%の企業がモバイル通信の導入や増築に興味があることが分かる。このことからも、今後も工場へのモバイル通信の導入は増えていくことが予測される。
※2)モバイル通信は無線通信を指すものとする。
※3)出典:総務省『製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン〜無線通信の基礎知識やローカル5Gの概要、工場における導入事例などを紹介します〜』
一方、モバイル通信を担う技術であるローカル5Gの認知は、同調査の時点では全体の約44%にとどまり、必ずしも高いとはいえない。しかし、大規模企業に絞るとその半数近くがローカル5Gの導入に対して前向きであることから、ローカル5G市場が成熟していくに従い、中小企業含めた工場でローカル5Gによるモバイル通信の導入と活用が増えていくことが期待される。
また、モバイル通信を担う技術としてローカル5Gを紹介する際、次世代の無線LAN規格である「IEEE 802.11ax」、つまりWi-Fi 6が比較対象としてよく取り上げられる。この記事を執筆している時点において、ローカル5Gの基地局のコストは1台当たり数十万〜百万円発生すると見込まれ、Wi-Fi 6対応のルーターの10倍以上のコストが発生する。ローカル5Gのコアネットワークまで含めた場合は、一式数千万円のコストが発生するため、導入コストの観点でWi-Fi 6に分があるのは疑いの余地は無い。
しかし、多くのローカル5G機器ベンダーや通信事業者の努力により、ローカル5G環境の仮想化(O-RAN)やローカル5Gコアネットワークのクラウド化、ローカル5Gのマネージドサービス提供による低価格化が着々と進んでいる。そのため、通信速度や安定性にかかわる品質、セキュリティなどを考慮すると、工場など、システムの可用性を重要視する環境において、ローカル5Gの利用が今後ますます加速、促進される可能性は高い。
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