原価の見える化と共有が“稼ぐ力”の基礎を作る、部門間情報のつなげ方モノづくり革新のためのPLMと原価企画(5)(2/3 ページ)

» 2021年11月29日 09時00分 公開

製品事業力を強化するプロダクト損益管理

 財務会計として開示する原価情報は、企業会計原則に基づいて、会計期間(年度)の期間損益を正しく明らかにしたものである。期間損益は、基幹システム(ERP)によって管理され、一定期間内に企業として、ヒト・モノ・カネをどれくらい有効活用できたかという組織力を評価する。

 一方で、売り上げによって回収すべきは、財務会計における会計期間内の製造原価だけではない。企画開発設計、生産準備における設備投資などの段階では費用は出ていくばかりで、その後に製造を開始して出荷に至り、はじめて売り上げが発生する。その売り上げから、材料費や加工組立費用を差し引いたものを積み上げて、製造のために投資した費用をコツコツと回収する。これが製造業の基本的なビジネスモデルである。

 事業単位で考えると、企画や開発止まりで、製品化に至らなかった分の費用も、製品化されたものの売り上げによって回収しなくてはならない。特に近年は、製品そのものではなく製品出荷以降のサービスでもうける事業形態も広まりつつある。投資した費用をどの時点で回収できたか、もしくはいつ回収できそうか、どのようにしたら回収できるかを議論する上で原価情報の必要性はますます高まっており、見える化が重要になってきている。

 投資回収を見える化する上で必要になるのがプロダクト損益管理である。プロダクト損益は、PLMシステムで管理され、収益力のある製品事業はどれか、投資すべき事業はどれかを判断するための製品事業力を評価するものである。(図3参照)

■図3:期間損益(組織力評価)とプロダクト損益(製品事業力評価)[クリックして拡大]

 例えば、設備投資を見てみよう。設備を購入する際は、運用の目的や予定とその効果を試算して稟議(りんぎ)を上げる必要がある。だが、購入後に予定通りに利用できているか、効果を上げているのかをしっかりとフォローしているケースは多くない。どの製品の製造のために設備投資をしたのか、その製品で予定通り回収できているのか、いつ回収できるのかを確認しなければならない。当初計画した製品で回収できる見込みがなければ、他の製品製造に活用したり、新規製品で活用できるよう検討したり、もしくは未回収分を別の製品や設備で埋め合わせできるように計画を見直したりすることが必要である。売却も選択肢の1つになるだろう。

 このように製品事業投資も計画と実績とを比較して、振り返る必要がある。それによって、次の投資計画の精度を上げ、投資効率を向上させることができる。いわゆる、投資のPDCAサイクルである。

 どのタイミングで投資が回収できるのかが分かっていれば、製品販売方針の選択肢も増える。販売価格を下げて競合からシェアを奪い取る、設備を更新してさらなる効率化を追求する、ロングテールで稼ぐ、製造中止(廃番)や提供中止(いわゆるディスコン)にして別の製品に注力する、製品ミックスを組み換えるなど、複数の選択肢を合理的に判断できる。そのためにも、投資と回収の見える化、製品事業力の見える化は、経営判断を支える強力なツールとなる。

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