2021年9月9〜12日に開催された「World Robot Summit 2020愛知大会」。ロボット競技会「World Robot Challenge(WRC)」の「パートナーロボットチャレンジ(リアルスペース)」に審査委員として参加した筆者の太田智美氏が、その舞台裏をレポートする。
経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催するロボットの世界競技会「World Robot Summit 2020愛知大会、以下WRS2020)」が、2021年9月9〜12日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催された。WRS2020は当初、2020年10月の開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により延期され、この時期の開催となった。なお、愛知大会と併せて2020年8月に福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で開催される予定だった福島大会は、2021年10月8〜10日に開催される予定だ。
WRSは、ロボットの技術やアイデアを競う競技会「World Robot Challenge(WRC)」とロボット活用の現在と未来の姿を発信する展示会「World Robot Expo(WRE)」で構成される。WREについては、WRS2020が緊急事態宣言の影響で無観客開催となったため現地会場での展示は縮小され、代わりにWRSオリジナルロボットのアバターを使って3D空間を周遊できるインタラクティブなオンライン会場「WRS VIRTUAL」が盛り上がりをみせた。
そんな中で、筆者はWRCの「サービスカテゴリー」のうち、「パートナーロボットチャレンジ(リアルスペース)」の審査委員を務めた。そこで、競技結果そのものというより、審査委員でしか知り得ない舞台裏についてレポートしてみたい。
パートナーロボットチャレンジとは、家庭における部屋の片付けをコンセプトにした競技だ。ロボットが行うべきタスクは主に3つあり、部屋に散らかったものを正しい場所に正しく片付けること、障害物を避けて自走すること、リクエストされたものを正しくつかみほしい人に渡すことを競う。
使用するロボットは、トヨタ自動車製のロボット「HSR(Human Support Robot)」だ。同一のハードウェアを用いるという条件の下で点数を競うが、ものをつかむハンド部分の改造のみ許可されている。部屋を模した「アリーナ」が2つ用意されており、これら2つのアリーナを使って2チームが対戦する。この対戦を、予選は総当たり方式で、決勝はトーナメント方式で行った。
そんな競技の裏で筆者が見たのは、フェアな競技を行うために用意された異常なまでの道具の数々と、妥協のない公平なジャッジをするための考え方だった。
はじめに、フェアな競技を行うために用意された道具たちと、その一部始終をレポートしたい。まずは、対戦を行うアリーナとして用意された、散らかった部屋の状態を見てほしい。
この散らかった部屋をロボットのHSRが片付けていくのだが、ここでもう1枚の写真を。
実は、最初の写真がアリーナA、次の写真がアリーナBのものである。真横から見るとこんな感じだ。
それぞれ奥に座っている人が違うからこそアリーナの違いが把握できるものの、物の散らかり具合を見ただけでは同じ写真のように見える。これこそがフェアな競技を行うために準備された努力の結晶なのである。
それでは、このコピーしたように散らかされた部屋はどのように作り上げられたのか。その一部始終を動画に収めてきたので、以下のYouTubeを設定ボタンから再生速度を2倍にしてご覧いただきたい。
パートナーロボットチャレンジではこのように、幾つもの型を使って、オブジェクトを1cmの狂いも許さないほど細かく丁寧に配置する。
このようなやり方を生み出したのはディスプレイ業などを専門とする花工芸社。型は全てオリジナルのもので、一度きりの使い捨てだ。設営時間は15分。試行錯誤の結果、この設営道具とプロセスを考案したのだという。
オブジェクトの配置は毎試合異なるのだが、どの試合を切り取っても2カ所のアリーナが不思議なほど同じ写真のように映る。
試合前には、競技者と審査委員に「配置に何か問題はないか」「不公平や不満はないか」を確認する。こうして、初めて競技がスタートする。あまり語られない舞台裏だが、こんなことまでやるのかと驚きの連続だ。
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