東芝は、2020年7月31日に開催された第181期定時株主総会の運営に関する調査結果を発表。「議決権集計問題」と「圧力問題」の2件について調査が行われ、圧力問題については東芝の経営陣と経済産業省が一体になって“物言う株主”の抑え込みを行っており「本株主総会が公正に運営されたものとはいえない」と報告した。
東芝は2021年6月10日、オンラインで会見を開き、2020年7月31日に開催された第181期定時株主総会の運営に関する調査結果を発表した。「議決権集計問題」と「圧力問題」の2件について調査が行われ、議決権集計問題については東芝の認識や関与は認められなかった一方で、圧力問題については東芝の経営陣と経済産業省が一体になって“物言う株主”の抑え込みを行っており「本株主総会が公正に運営されたものとはいえない」と報告した。
同調査は、2021年3月18日付の臨時株主総会で選任された、オメルベニー・アンド・マイヤーズ法律事務所の前田陽司氏、兼子・岩松法律事務所の木﨑孝氏、和田倉門法律事務所の中村隆夫氏の3人が担当。会見も3氏が登壇して、調査結果について説明した。
今回の調査は、東芝の株主であるエフィッシモ(Effissimo Capital Management)が第181期定時株主総会の運営に関する第三者委員会による調査を2020年9月23日付で東芝経営陣に要請したものの、要請から3カ月経過しても設置されなかったため、2020年12月17日付で東芝に臨時株主総会の招集を請求、提案した、会社法316条2項に定める株式会社の業務および財産の状況を調査する者の選任議案(以下、調査者選任議案)に基づくものだ。
東芝は、この調査者選任議案に反対した上で、議決権集計問題については東芝の株式事務代行機関・株主名簿管理人である三井住友信託銀行に調査を要請するとともに、社外取締役のみで構成される監査委員会が外部の弁護士事務所を起用して調査方法と結果の相当性を検証し、圧力問題についても監査委員会が外部弁護士事務所を起用して調査を実施した。そして、これらの調査結果からエフィッシモなどが主張する疑義が認められなかったと報告した。
しかし、この東芝による調査報告があったものの、2021年3月18日付に開催された臨時株主総会では株主の賛成大数により調査者選任議案が可決された。調査は、東芝の役員および従業員合計9人や関係者へのヒアリング、調査事項と関連がある東芝関係者7人についてメールサーバから電子データの処理、解析を実施するデジタルフォレンジック調査などによって行われた。
今回の調査のうち、議決権集計問題については、株主総会集中時期に大量の議決権行使書の集計を行うために行われる「先付処理」に問題があったものの、東芝側にとって不利な議決とならないよう意図的に不正な処理を行ったという事実は認められなかった。
一方、圧力問題については、当時の東芝 代表執行役社長 CEOの車谷暢昭氏、代表執行役副社長の豊原正恭氏、執行役上席常務の加茂正治氏を中心とする東芝経営陣が、経済産業省で情報、電子、サービス産業を所管する商務情報法政策局と一体になって、エフィッシモをはじめとする物言う株主に圧力を加えていたことを示す調査結果が報告された。
全121ページにわたる調査報告書のうち70ページ以上にわたって、東芝経営陣とエフィッシモなどの物言う株主とのやりとり、東芝からの経済産業省に対する株主総会に向けた支援の要請、2020年5月からの東芝経営陣と商務情報法政策局による物言う株主の株主提案取り下げに向けた準備、物言う株主の1社であるHMC(Harvard Management Company)の議決権を行使させないために経済産業省 参与の協力があったことなど、調査結果が詳細に説明されている。
調査を担当した和田倉門法律事務所の中村隆夫氏は「物言う株主に対して行政当局である経済産業省が“北風”のように厳しく当たり、それに対して東芝が“太陽”のように対応することで株主提案を取り下げる方向へ持って行こうとした。しかし、実際には東芝と経済産業省は一体になっていたわけで、公正とはいえない」と語る。
また、調査に対応した東芝経営陣が、ヒアリングの際に罪の意識や反省の弁を表明したか、という報道陣の質問に対して「調査を通してそういったものは全く感じられなかった。そのことは、今回のような事態が起きた背景にあるのではないか」(中村氏)としている。
なお、東芝は、調査結果を受けての対応について「調査報告書の内容を慎重に検討の上、後日開示する」(同社)としている。
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