こうしたデータの「Infinity Loop」を構築し、成果を結び付けていくには製造業にはどういうことが求められるのだろうか。
ナイケ氏は「部門やプロセスなどのサイロを破壊することだ」と重要なポイントについて強調する。「現在はそれぞれの部門やプロセスごとにシステムが存在し、これらごとのサイロでの最適化が行われている状況だ。例えば、設計、製造、リソース計画などそれぞれでシステムやデータの最適化が行われており、それぞれでデータの連携が行われていない。こうしたサイロを破壊する『サイロバスター』が求められている。こうしたそれぞれの点を1つ1つ結んでいく(Connecting the dots)ことが重要だ」と訴えている。
現状では、製造業の多くの工程は組織化され、成熟が進んでいる。そのため、これらの中だけの部門最適化が進んでしまっている。しかし、デジタル技術の進展により従来の部門の境界線が意味を成さなくなる状況が生まれる中で、部門最適が全体最適につながらない状況が生まれてきている。これらを改め、現在の技術環境に最適な形へ再構築が必要になるということだ。
製造業内に存在する「サイロ」として、ナイケ氏は「ソフトウェアとハードウェアのサイロや、IT(情報技術)とOT(制御技術)のサイロ、トップフロア(経営層)とショップフロア(現場)のサイロなど、さまざまなものが存在する。これらのサイロを1つ1つ壊し、新たな形を構築していくことが重要だ」と語る。
ナイケ氏は「例えば、製品開発におけるソフトウェアとハードウェアのサイロの解消については、製品設計者は製品開発の初期段階からデジタルシミュレーションを活用し、実機によるテストとのデータ連携を自動で行えるようにする。そのフィードバックを回していくことで、最適な製品開発が行えるようになる」と語る。
OTとITとの連携でも同様だ。OT側は主にフィジカルワールドで、データ「収集」で大きな役割を担う。工場での人手作業やPLCなどによる機械制御など、現場データを何百テラバイトも生み出している。ただ、こうしたデータを「理解」し「活用」するにはIT部門の助けが必要になる。ITとOTを一緒に考えることで、データを活用するサイクルを構築する。例としてナイケ氏はスマートウォッチによる運動データの活用を挙げた。
「スマートウォッチ端末では、1日に何歩歩いたかや、何km移動したか、どれくらい呼吸したかなどのバイタル情報や運動情報を取得する。ただ、これらのデータを取得するだけでは変化は生まれない。データを収集した後、その意味を理解し、活用して、現実世界にフィードバックすることが重要だ。『もう少し歩いた方がよい』などである。企業においてのITとOTも同様で、両者を結び付けることで、工場の生産性やエネルギー効率をどう高めていくのかなどの課題に対し、効率的に対策を進められるようになる。経営層と現場のサイロも同様である」とナイケ氏は述べている。
これらのサイロを壊し、1つ1つを結んでいくことで「産業用IoTの世界が加速する」とナイケ氏は語る。製造業内のサイロを破壊し、これらを解決した後に実現できる例の1つとして、ナイケ氏はフレキシブルモジュラー型生産ラインを紹介した。フレキシブルモジュラー型生産ラインでは、それぞれの工程作業はロボットや専用装置で自動化され、さらにこれらの間のワークの搬送をAGV(無人搬送車)などで柔軟に行うことで、変化に強く柔軟な生産ラインを実現するという考え方だ。
「こうした世界を広げるためにさらにさまざまな技術を活用して加速させる。例えば、産業用5Gの活用などもその1つだ。データを有効に収集し、それを結んでいくという意味で5Gは大きな役割を果たす」とナイケ氏は語る。
さらに「2025年には、製造現場で生まれるデータの80%をエッジで処理し、20%をクラウドで処理する世界になると考えている。これらを有効に結び付けるということが必要だ。例えばエネルギーの問題で考えても、エネルギー消費の70%は何らかのモーターで行われている状況がある。そう考えるとITとOTとを緊密に連携し対応していくということが何より重要だ」とナイケ氏は訴えている。
ナイケ氏は「全ての人がデータを基に柔軟に協力していく時代が始まっている。データは全ての人に共通の言語だ。データを活用することで従来にないさまざまな企業の能力を引き出すことができる。シーメンスはFA機器や製造ITでも主要な企業だが、1社のみではこれらの新しい世界は実現できない。必要なパートナーシップを次々に拡張していることもポイントだ」と強調した。
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