タイミングチャートに従って動く3Dデジタルツインは、メカ動作の仕様そのものである。これまでメカ部門では、ソフトウェア部門へ動作仕様を伝達する際、「こんな感じで動かして。後はよろしく」と口頭で曖昧に指示することも少なくなかった。これに対して、動く3Dデジタルツインを用いれば、動作が3Dで明確に定義されているため、正確な情報伝達が可能となり、ソフトウェア部門はロジックを正確にプログラムに落とし込むことができる。結果として、メカ部門の意図通りにメカが稼働することになる。
動画2で簡単な例を紹介しよう。ライン上を移動するワークがプレス機まで来るとプレス加工され、ロボットまで来ると別のラインに移されるという簡単な設備である。3Dデジタルツインの内部に仮想センサーを置くことで、部品が移動してきたかどうかを判断し、3Dデジタルツインの動きを制御できる。最近では、生産設備の開発を依頼されたメーカーが、設備仕様を3Dでプレゼンテーションするというケースもある。複数の部門、会社に作業が分かれる場合、動く3Dデジタルツインは共通の理解を促す重要な武器となる。
先に紹介したXVL Vmechでは、PLCの上で動くソフトウェアが3Dデジタルツインを駆動させ、その動きを確認することでメカモデルと制御ソフトウェアの正しさを検証する。実機検証の手戻りを最小化できるよう、実機および実ソフトウェアと連携できるようにしている。つまり、PLCというハードウェアをシミュレーションの中に組み込むという意味ではHILSだといえる。また、PLCメーカー各社からPLCのシミュレーターが提供されており、その“実際のソフトウェア”とXVL Vmechを接続することもできるため、その意味ではSILSということになる。
これを実際に利用しているのが日本製鋼所である。同社は、フィルムの延伸装置の開発にV字開発、MBD、HILSという文脈の中で、XVL Vmechを利用している。機構の動作軸の設定や仮想のモーター、センサーを組み込むことで、3D CADデータが動く3Dデジタルツインに変わっていく。5カ月にも及ぶ実機待ち時間の間に、3Dデジタルツインを利用した制御ソフトウェアの動作検証を進めることで、検証期間を短縮し、実機ではできないような大胆な検証によって品質向上を成し遂げたのだ。その詳細が、技術論文として公開されている。宇宙開発を起点とするV字モデルの考え方が、いよいよ身近なものになってきている。
3Dデジタルツインを活用した生産設備の開発プロセスのDX推進においては、3つのポイントがある。
この3つの相乗効果で量産開始までのリードタイムの短縮を実現できる。旬のある商品、例えば、年賀状印刷を行うプリンタのように、ある時期までに一定量の製品を生産しておく必要があるものは多い。3Dデジタルツインを組織間で共有することで、新しい開発プロセスを実現し、他社に先駆けた製品投入という果実を手にすることができる。
「はやぶさ2」が、人工クレーターの作成や誤差60cmでの着陸成功など「7つの世界一」を達成したことは、日本人として誇らしいことである。その開発と製造には、200〜300社が参画し、高いレベルで技術を組み合わせることで、これを実現したという。資源の少ない日本では人が最大の資産である。こういう挑戦こそ人を成長させるだろう。ワクチン接種が始まりアフターコロナへの幕開けが見えつつある今、“DX×3D”へ挑戦することで、製造業の人材が飛躍し日本の国力を底上げする、そんな時代を夢見ている。 (次回へ続く)
鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」「3次元ものづくり革新」「3Dデジタル現場力」「3Dデジタルドキュメント革新」などがある。
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