人間の体ような統合処理とはいかないまでも、分散したECUの機能を統合することが自動車業界のトレンドである。その中で、車載ネットワークの主流はCANからイーサネットに移っていくという。世の中でネットワークとして広く取り入れられているイーサネットがクルマにも採用されることで、「クルマが街の一員として溶け込めるようになる」(飯山氏)と紹介した。
「CANよりも高速なCAN FDであっても通信速度は2Mbpsで遅い。ソフトウェアのアップデートや大量なデータの扱いを実現するには、ネットワークに流せる情報量が変わらなければならない。これまでにも、さまざまな車載ネットワークが検討されてきたが、不足している部分が多い。イーサネットが有力だが、コストを考えると普及は簡単ではない」(飯山氏)
自動車のソフトウェアを複雑にしているのは、ECUの多さだけではない。飯山氏はクルマ選びを例に説明した。新車からクルマを選ぶとき、車種を決め、その車種に設定されたパワートレインを選び、さまざまな装備の有無を決定する。その結果、モデルによってはカタログにおよそ10種類の選択肢が掲載される。この選択肢の多さが、車載ソフトウェア開発の複雑さにも影響するのだという。
「車両の仕様書が、最上位の仕様書として使う部品やパラメータを定めているが、この仕様書にさらに情報を加えて1台のクルマとしての動作が決まる。バリエーションポイントというクルマの動作を左右するスイッチがあり、これをオンにするかオフにするか、人間が判断したり、仕様によって決まったりする。例えばパワートレインをガソリンエンジンにするかハイブリッドシステムにするかを決めた先にバリエーションポイントがあり、順番に値が定まって、ソフトウェアの動作が決まる。こうしたバリエーションポイントは、1台のクルマが完成するまで1万個ある。1万のパラメータを決めないと、クルマのソフトウェアは完成しない。これをすり合わせながら開発していく」(飯山氏)
自動車産業の規模の大きさも、無関係ではない。企画から設計、製造、販売、運用、廃棄やリサイクルまでのライフサイクルはとても長い。「規模が大きくなるほどライフサイクルを支えるのは難しくなる。ライフライクル全てを正しく支えるには、システムを正しく理解しなければならない」(長尾氏)という。
そこで、トヨタにとってソフトウェアの重要性が増している。「システムを正しく理解するには、車両全体のシステム設計の推進、システム設計情報の取り扱いのデジタルトランスフォーメーション(DX)、こうした設計情報を正しく活用できる開発プラットフォームが必要だ。ソフトウェア開発というとスマートフォンのアプリケーション開発が思い浮かぶかもしれないが、トヨタグループが取り組んでいるのは、ソフトウェアの力でクルマのライフサイクルを正しく支えていくということだ」(長尾氏)
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