ETロボコンも初のオンライン開催に、シミュレーター活用で見えた新たな可能性〜ETロボコン2020チャンピオンシップ大会〜ETロボコン2020(1/3 ページ)

コロナ禍の中で2020年のETロボコンも、パシフィコ横浜でのリアル大会の開催を見送り、シミュレーターを活用した完全オンライン開催となった。19回目にして初となったオンライン大会で、従来の競技をどこまで再現できたのだろうか。

» 2021年02月01日 10時00分 公開
[大塚実MONOist]

 「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(ETロボコン)」のチャンピオンシップ大会(全国大会)が2020年11月22日、オンラインで開催された。例年、この大会はパシフィコ横浜で開催されていたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、会場に集まって競技を行うことが難しくなったため、完全オンラインでの開催に切り替えていた。

 今回で19回目となるETロボコンにとってもオンラインでの開催はこれが初めて。参加数は183チームと、従来と比べてやや少なくはなったものの、初の試みとしては、盛況だったといえるだろう。オンライン大会で、従来の競技をどこまで再現できたのだろうか。それでは早速、大会の模様をレポートしていこう。

ETロボコン2020は初めてオンラインで開催 ETロボコン2020は初めてオンラインで開催(クリックで拡大)

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なぜオンラインで開催できたのか

 ETロボコンは、組み込み分野における人材育成を目的とした競技会である。大きな特徴は、ロボット競技としては珍しく、同じ構成のハードウェア(ETロボコンでは「走行体」と呼ばれる)を使用することだ。ロボットの機体性能は各チームで変わらないため、競技の成績は完全にソフトウェア次第となる。

走行体は3輪型の「HackEV」を使用 走行体は3輪型の「HackEV」を使用。LEGOの「MINDSTORMS」で作られている(クリックで拡大)

 また人材育成が目的であるため、競技の結果だけでなく、ソフトウェアの“設計図”である「モデル」を重視していることも大きな特徴だ。総合成績は、競技の結果とモデル審査の評価で決まるので、競技で速く走るだけでは優勝は難しい。ソフトウェアの内容を正しく表現し、課題の有効な解法を示したモデルを提出する必要がある。

 コロナ禍で多くのロボット競技会が中止や延期になる中、ETロボコンが開催できたのは、もともとソフトウェア/モデル勝負の大会だったため、オンライン化しやすかったということが要因として大きいだろう。ハードウェアは共通なので、データだけ送ってもらえば、競技は行えるというわけだ。

 オンライン開催であっても、従来同様に「実機を動かす」という選択肢はあったはずだが、今回のETロボコンがユニークなのは、競技自体を全て仮想空間上で行ったということだ。そのために、実行委員会の有志がシミュレーターを開発。このシミュレーター上で走行体を動かすことで、リアル大会と同様の競技を実現した。

 シミュレーターは「Unity」の3Dエンジンで動作。走行体はモーターやセンサーを全て模擬しており、実機と同じプログラムが動作するよう工夫したという。筆者は取材でもう10年近くETロボコンを見てきたが、このシミュレーターの再現度は非常に高く、走行体の物理的な挙動も、かなり実物に近いと感じた。

前回の実機と今回のシミュレーターの比較 前回の実機(左)と、今回のシミュレーター(右)の比較。ほとんど違和感がなかった(クリックで拡大)

 以前に比べ、多くの企業ではテレワークが進んでおり、参加チームの中には、メンバー同士で一度も顔を合わせたことがないというところまであった。実機が不要な今回のETロボコンは、テレワーク中であっても、リモート開発しやすかったのは大きなメリットだっただろう。

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