ある大手デバイスメーカーでは、ハードウェアのノウハウが詰め込まれた機密性の高いソフトウェアや、競合他社の手に渡ると非常に厄介なことになるソフトウェアを、海外の開発関連会社や委託会社に提供していた。既に開発の中心は海外のエンジニアにシフトしていたが、日本とは完全に異なる文化やワークスタイルに起因して、ソフトウェアの管理方法について悩まされていた。
海外の開発現場では、開発メンバーがある日突然退職してしまい、これら重要なソフトウェアがインストールされたままの開発PCを返却しないまま行方不明になるケースや、ソフトウェアが入ったままのPCが紛失や盗難に遭うといったトラブルが頻発していた。インストールされたソフトウェアの管理が非常に難しく、日本では考えられない事態にたびたび巻き込まれていた。
しかし、最も大きな悩みは、PCの紛失や盗難などがあっても、その事実を正確に申告してもらえなかったことだった。PCの所有権が開発現場にあり、どのPCでどのようなソフトウェアを利用していたかまでを現場が関知していないことも関係していた。
機密性の高いソフトウェアが利用できる状態のPCが外部流出していることは、企業にとってリスク要因であり、技術流出の危険性がつきまとう。そのため、現場にはソフトウェアの管理を任せていられないという結論に達し、日本側で流出防止できないか対策を検討することとなった。
ソフトウェアには暗号化だけでなく、クラウド側でライセンス管理を行って利用期間が限定される状態でライセンスを提供した。一定期間経過するとライセンスは利用できなくなるため、開発現場では定期的に更新手続きを行う必要がある。ライセンスはユーザー別の管理がなされているために、開発メンバーが退職した場合は退職者のライセンスを無効化することによって、クラウドを通してPCのライセンスを利用できないように制御できるようになった。
また、ソフトウェアの利用状況データから利用拠点を把握して、PCの盗難や紛失の恐れや、意図しない場所で利用されているようなライセンスはリモート制御して無効化するといった対策を行えるようになった。
さらに、ソフトウェアの利用状況データは常にクラウドに収集されているため、日常の業務としてソフトウェアを利用しているのか、利用していないのか、言い方を変えれば、どのような仕事ぶりなのかも海を越えて把握することができるようになった。
セキュリティは企業活動において欠かすことのできないテクノロジーであるのは間違いない。ソフトウェアのセキュリティや知的財産の保護も当然重要なのだが、忘れてはならないのは、保護するというアプローチは収益化の一つのポイントにすぎない。ソフトウェアを保護するという意図、その目的をさらに掘り下げると、ソフトウェアに関するビジネスの本来の課題が見えてくる。本質は保護すること以上に、根本的なビジネス課題が潜んでいるのだが、ほとんどの企業はその課題に気が付いていない場合が多い。しかし、欧米企業はソフトウェア収益化の重要性に既に気が付いており、セキュリティを含めながらソフトウェアを活用したビジネス革新に取り組んでいるのだ。
日本企業はどうしてもセキュリティから入りがちだ。否定はしないが、それにとどまってしまうのは過去の製造業の姿であり、セキュリティに捉われるがあまり、DX時代に乗り遅れてしまうのではないかと危惧している。必要なのは総合力であり、セキュリティと収益力強化のためのバランスを保った戦略をとるべきである。そういった意味で、ソフトウェア収益化という考え方は、まさに製造業のビジネス革新を支えて成功に導くソリューションだと確信している。
そこで次回は、どのようなプロセスでソフトウェアによるサブスクリプションの収益化を展開していくべきか、何をどのように計画して実行に移していくのか、企業の取り組みも交えながら考えていきたい。
前田 利幸(まえだ としゆき) タレスDIS CPLジャパン株式会社(日本セーフネット株式会社/ジェムアルト株式会社)ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 シニアアプリセールスコンサルタント ビジネス開発部 部長
ソフトウェアビジネスに取り組む企業に対して、マネタイズを実現するためのコンサルティングやトレーニング、ソリューション提案を実施。全国各地で収益化に関するセミナーや講演活動を展開。IoT関連企業でシニアコンサルタントを経て現職。同志社大学 経営学修士(MBA)。二児の父。
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