コロナ禍克服の“先”を目指すニューヨークのスマートシティー海外医療技術トレンド(63)(3/4 ページ)

» 2020年09月18日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]

ニューヨーク市経済開発公社が支援するスマートシティー・イノベーション

 一方、スマートシティーを起点とする新産業創出・雇用拡大については、ニューヨーク市経済開発公社(NYCEDC)(関連情報)が積極的に取り組んでいる。例えば、2016年2月16日、NYCEDCは、持続可能性のあるスマートシティーを構築するスタートアップ企業の支援を目的としたプログラムの「アーバンテックNYC」(関連情報)を発表し、New Lab(関連情報)、グランド・セントラル・テック(GCT)(関連情報)と連携して、ブルックリンとマンハッタンに、アーバンテクノロジー・グロース・ハブを創設する計画を明らかにした(関連情報)。

 また、2019年1月9日には、NYCDCとNew Labが連携し、ニューヨーク市内における実証実験を通して、資源の再利用・リサイクルや廃棄物の解消、エネルギー効率性の向上に関わるテクノロジー・スタートアップ企業を支援する「2020年版循環都市(Circular City)」プログラムを創設したことを発表している(関連情報)。さらに、同年2月6日には、「アーバンテックNYC」の一環として、NYCDCとCIV:LAB(関連情報)が連携し、70以上の組織による産学連携ネットワークである「The Grid」を創設したことを発表している(関連情報)。

 このようなスマートシティー関連プログラムと並行して、NYCEDCは、デジタルヘルスにおいても、活発なイノベーション支援活動を行っている。例えば、「アーバンテックNYC」がスタートした2016年に、ヘルスケア・イノベーション&テクノロジー・ラボ(HITLAB)(関連情報)と連携して、「デジタルヘルス・ブレークスルー・ネットワーク(DHBN)」(関連情報)を創設している。またNYCEDCは、2013年に、ニューヨーク市における医療/ライフサイエンス・エコシステムの構築支援を目的として「デジタルヘルス・マーケットプレース」(関連情報)を創設していたが、2018年より、マッチメーキング、イノベーション支援コンテスト、Webサイトなど、プログラムのリニューアル作業に着手している(関連情報)。

 このほか、NYCEDCは、官民連携パートナーシップにより、テクノロジー、メディア関連スタートアップ企業向けのイノベーション支援を目的とする「Digital.NYC」(関連情報)、ライフサイエンス関連研究、イノベーション支援を目的とする「LifeSci.NYC」(関連情報)などの運営も行っている。

COVID-19緊急事態下で求められるスマートシティーの強靭性

 2020年3月7日、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する緊急事態宣言を発出した(関連情報)。その後同月13日には、ニューヨーク市長が、COVID-19に関する緊急事態宣言を発出し(関連情報)、参加者数500人規模以上のイベントの中止、「エッセンシャルワーカー」以外の職種の在宅勤務シフトなどが盛り込まれた。参考までに、ニューヨーク州において「エッセンシャルワーカー」に該当する業種・職種は以下の通りである(関連情報)。

  1. 必要不可欠な医療現場業務(臨床検査施設、病院・診療所、介護福祉施設、医療機器・部材製造供給者など含む)
  2. 必要不可欠なインフラストラクチャ(電気、ガス、水道、公共交通、通信、データセンターなど含む)
  3. 必要不可欠な製造業者(食品、医薬品、医療機器、衛生製品、通信・電子機器、農業など含む)
  4. 必要不可欠な流通業者(食料品店、薬局、コンビニエンスストアなど含む)
  5. 必要不可欠なサービス(廃棄物回収/処理/リサイクル、倉庫物流、保育サービスなど含む)
  6. ニュース・メディア
  7. 金融機関(銀行、保険会社、金融関連サービス、会計、給与計算など含む)
  8. 経済的に恵まれない集団向けの基礎的必需品供給者(ホームレス・シェルター、フードバンクなど含む)
  9. 建設業(電気・配管工事業者など含む)
  10. 防衛(米国連邦政府機関またはその委託先を支援する防衛および国家セキュリティ関連業務などを含む)
  11. 住居またはその他の必要不可欠なビジネス向けに安全、衛生および必要不可欠な業務を維持するために要求される、必要不可欠なサービス(警備、設備管理など含む)
  12. 必要不可欠な製品またはサービスを提供するベンダー(ブロードバンド/ケーブルサービス、ロジスティクス、オンラインサービス向け技術サポート、保育サービスなど含む)

 医療機器の観点から「エッセンシャルワーカー」の分類をみると、製品ライフサイクルの上流段階から、製造、物流、販売、カスタマーサポート、廃棄に至るまでの業務プロセスがほぼ含まれている。これは、スマートシティー戦略に関わる製品・サービスでも同様であり、関連する業務プロセスの担い手の大半が「エッセンシャルワーカー」であることが分かる。当然ながら、健康・ウェルビーイング分野のスマートシティー関連ソリューションは、持続可能性(Sustainability)と強靭性(Resiliency)を兼ね備えていることが必要だ。

 もともとニューヨーク市は、2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件を教訓に、強靭性を重視した街づくりを行ってきた経緯があり、COVID-19緊急対応期から経済再開に向けた移行期間を迎えた今、その傾向がより鮮明になっている。

 ニューヨーク市内で、スマートシティーやデジタルヘルス関連のイノベーション支援活動を行ってきた組織の多くは、リアルの場からバーチャルの場にシフトして、COVID-19緊急対応期間中も、オンラインツールを駆使したコミュニティーエンゲージメント推進策や情報の受発信/共有活動を積極的に行ってきた。また、ニューヨーク市内にサテライトオフィスを有する他国・地域のイノベーション支援組織も、デジタル技術を活用したネットワーキング活動を積極的に展開している。

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