オートメーションと計測の先端総合技術展「IIFES2019」(2019年11月27〜29日、東京ビッグサイト)のキーノートセッションに、クボタ特別技術顧問工学博士の飯田聡氏が登壇。「クボタの目指すスマート農業」をテーマに、同社のスマート農業への取り組みを紹介した。
オートメーションと計測の先端総合技術展「IIFES2019」(2019年11月27〜29日、東京ビッグサイト)のキーノートセッションに、クボタ 特別技術顧問 工学博士の飯田聡氏が登壇。「クボタの目指すスマート農業」をテーマに、同社のスマート農業への取り組みを紹介した。
クボタでは次世代農業の取り組みとしてICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット)を活用したスマート農業技術の開発を行っている。講演では担い手農家(農業経営への意欲や能力のある農業者のうち、農業経営基盤強化促進法にもとづく経営改善計画の市町村認定を受けた認定農業者など)が直面する課題解決のために「農業データ活用による日本型精密農業」「自動化・無人化による超省力化・軽労化技術の開発」を推進し、これらにより新しいビジネスモデルの展開などを行えるようにすることを解説した。
クボタの2018年12月期の売上は1兆8500億円でその内、農業機器とエンジンが全体の67%を占める。同分野の売り上げ規模では世界第3位だが「グローバル・メジャー・ブランド」を目指し、さらなる取り組みを進めていく方針を掲げている。これらを達成するためのツールの1つとして「ICT・IoTによるイノベーション」を重要施策として掲げる。「ICTやIoTを活用することで新たな価値を実現する」と飯田氏は語る。
日本の農業就労者は平均年齢67歳という高齢化と、それらに伴う離農により大幅に減少している。農家戸数はここ20年で半減し、2020年には約100万戸となる予想だ。2030年には40万戸まで減る見方もある。一方で、5ヘクタール以上の担い手農家の規模は拡大しており、大きな構造転換が起こってきた。行政でも農地バンクなどの施策で規模の拡大による生産性の向上を促進している。こうした土地利用型農家の担い手が抱える課題やテーマとしては、多数圃場管理の問題(収量、品質低下、増加する作業者管理)、生産コスト、生産品の高付加価値化(ブランド化)、重労働や労働環境の改善、人材育成、販路開拓・拡大が挙げられる。
「もうかる魅力的なビジネスへの転換」「重労働から解放し働き方改革により若者の参入を促進」「中山間地を含め農村の活性化を図り、農業の多面的な機能維持」「気象変動に強く持続可能な農業へと変革していくこと」などが農業全体に求められる中、クボタではこれらの解決策として「スマート農業」を打ち出す。クボタが考えるスマート農業とは1つはデータ活用による精密農業の実現、もう1つが自動化・無人化による超省力化と軽労化となる。
飯田氏は「基本は精密なデータ活用により市場で求められる作物を、求められる時期に、求められる量だけ(廃棄極小化)作ることが理想だ。一方でこれらの負荷を軽減するためには、人手で全て行うのは難しくITだけでなく農機も自動化や無人化を進める必要がある」と語る。
クボタではこれらを実現するために、稲作においては「耕起・基肥」「代掻き(しろかき)・育苗」「田植え・施肥・除草剤散布」「中間管理作業」「収穫」「乾燥・調整」などの栽培サイクルの機械化を1970年代から開始。機械化と組み合わせる形で、経営・栽培管理を行う営農支援システム「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」を活用し、作付け計画などを管理する。センシング機能が付いた自動農機などを投入し、これらの情報を活用することで効率的な農作業の体系を構築した。
「KSAS」は農業機械とICTを利用して作業・作物情報(収量・食味)を収集し活用することで「もうかるPDCA(Plan-Do-Check-Action)型農業」を実現する営農・サービス支援システムである。高収量・良食味米づくり、農家の栽培ノウハウの伝承、安心安全な農作物づくり、農業経営基盤の強化、また迅速なサービス提供を実現する。
現在サービスを開始しているステップ1では、圃場地図と連携した栽培支援システムの構築(栽培管理の効率化)、コンバイン・田植え機・乾燥機との連携によるPDCA農業の実現、稲作から畑作(小麦、大豆など)への展開を行っている。
まず圃場情報、作業内容、農薬・肥料などの資材情報、使用する機械の基本情報を入力する。次に作付け計画、作業計画、作業指示・進捗確認の計画を入力する。最後に収量・食味や生産性・コストの分析、GAP(Good Agricultural Practice、農業生産工程管理)対応、機械診断カルテを作成する仕組みとなる。「KSAS」対応の食味収量コンバインでは、収量センサーとしてグレンタンクの下部に設置したロードセルで重量を計測。食味センサーは、近赤外域の波長の強さを測定することで、モミの水分およびタンパク質の含有率を測定する。
これらにより、刈り取り直後に圃場ごとの「収量・食味」のバラつきを把握できる。これを生かし乾燥機との連携による籾の「タンパク質・水分」仕分けが可能となる。さらに収量・食味マップを用いた圃場一枚ごとの施肥計画や土壌改良にも活用できる。「新潟地区でのモニターテストでは、収量が3年間で約15%増加する効果が得られた」と飯田氏は効果について語っている。
開発中のステップ2では、メッシュマップによる圃場内のバラつきの把握や、リモートセンシングによる育成状況の診断と可変施肥、施薬、水管理システム(WATARAS)との連携による効率化に取り組む。また、気象衛星と育成モデルの活用による収量予測なども行う計画だ。さらにステップ3ではAIによる高度営農支援システム(営農コンシェルジュ)の構築を進める方針を示している。
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