ここからはホーレン氏への単独インタビューの内容をお伝えする。
MONOist URは協働ロボット市場を切り開いてきた存在だと思いますが、ここまでの手応えについてどう考えていますか。
ホーレン氏 2005年に創業し2008年に最初の製品を提供してから、普及し始めるまでに10年かかった。ただようやく「市場が始まった」というところで、まだまだアーリーフェーズである。そのため、今後数年間は引き続き高い成長率を持続できると考えている。
この段階になってようやく「ファーストムーバーアドバンテージ(市場にいち早く参入することで得られる利益)」が得られている。ただ、ファーストムーバーだったからこそ苦しんできたことも事実だ。特に、協働ロボットそのものの認知度がないという点、規制や業界標準が未整備であったという点が大きな障壁となった。これらを何とか乗り越えてきたというのが現状だ。
2019年に入ってようやく企業としても成熟してきた。2020年からはその意味でも次のフェーズに入っていく必要がある。次のフェーズで達成したいことは、1つは大手企業の生産ラインの中心的な位置付けでの導入を実現すること、もう1つは中小企業での採用を拡大することだ。
MONOist 製品展開当時は規制があり、人と作業スペースが共有できない状況でしたがその中で製品展開を進めた動機というのはどういうものがあったのでしょうか。
ホーレン氏 創業者がもともとURを設立し、その製品で実現したかったのは「ロボットをもっと簡単に使いたい」という理由からだ。人と共に作業する意味では安全性は大事な要素ではあるが、その点を重視して開発したわけではない。生産現場を見る中でロボットの使用は広がっているもののその複雑性も高まっており、個々のロボットの操作や設定などもより複雑になってきていた。より高度な製造現場が求められる中で、このまま複雑性が高まれば、いずれ限界に達すると感じていたという。そこで「シンプル」を追求したロボットを開発したというのが経緯だ。
MONOist 協働ロボットは従来型の産業用ロボットに比べると高速性や精度などで及ばず、柔軟性では人に負けるという存在で、ユーザーの中では「使いどころが難しい」という声もあります。「協働ロボットの使いどころ」についてはどう考えていますか。
ホーレン氏 URが市場を開拓しここまで受け入れられるようになってきたのは「協働ロボットの価値をどこで出すべきか」を常に考えてきたからだ。その1つのカギが「柔軟性」である。同じ作業を高速で繰り返すだけの作業をずっと続けていられるのであれば、従来型の産業用ロボットの方が向いている。一方で人のペースに合わせて作業を行ったり、少量多品種で頻繁に段取り替えなどが求められたりする環境では、協働ロボットが持つ柔軟性が求められている。その意味では、協働ロボットは従来型の産業用ロボットと競合するものではなく、別のアプリケーションだと捉えている。
そして、不確実性が増す現在のモノづくりの環境では、5年や10年固定したままの製造ラインを高速に回転するというものよりも、短期間で需要などに合わせて作り替えていく生産ラインが求められるようになっている。ラインの変更に合わせて、ロボットのプログラムも頻繁に書き換えが求められるようになる。そうした時に従来型の産業用ロボットを本当に使い続けて総合的な生産性を維持できるのかというと、そうではない領域が出てくる。その領域が今後ますます広がると考えており、そこに協働ロボットを提案していくというのが考え方だ。
MONOist 人の作業性と比べた場合の、協働ロボットの意義についても教えてください。
ホーレン氏 当然だが人の作業を全て協働ロボットで置き換えるというのは現実的ではないと考えている。どこでバランスを取るのかが重要だ。例えば、反復が多い作業や、力学的に人間が行うには不向きな作業については協働ロボットで行う意味がある。協働ロボットは、オートメーションと人のちょうど中間に位置しており、協働ロボットをあえて使おうとするのではなく「何がやりたいか」を考えて価値を探していくということが重要だ。人間のやりたいことにリソースを加えて拡張するというのが協働ロボットの役割だと考えている。
MONOist 「シンプル」が最大の要件だとすると、この要件を満たした従来型の産業用ロボットを展開する考え方もあるような気がするのですが、柵が必要な従来型の産業用ロボットを展開する可能性もありますか。
ホーレン氏 技術的には可能かもしれないが、基本的にはURは協働ロボット市場で勝負する。まだ協働ロボット市場は始まったばかりで、今のポートフォリオでまだまだ多くのことが実現できる。それをやれるだけやるというのが最優先だ。特殊案件では対応することはないとは言い切れないが、あくまでも協働ロボットを中心に取り組みを進めていく考えは変わらない。
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