セールスフォース・ドットコムは2019年9月に製造業向けソリューション「Manufacturing Cloud」の提供を開始した。なぜセールスフォース・ドットコムは業種別ソリューションを強化するのか、製造業にとってのメリットは何か、同社 製造業・自動車業界担当バイスプレジデント&チーフソリューションズオフィサーであるアチュート・ジャジュー氏と、同ソリューションのパイロットユーザーであるMipox 代表取締役社長の渡邉淳氏に話を聞いた。
CRM(Customer Relationship Management)システムなどを中心にさまざまなクラウドソリューションを展開するSalesforce.com(セールスフォース・ドットコム、以下SFDC)。従来は営業部門向けやマーケティング部門、サービス部門向けなどの部門向けのソリューションを中心に展開してきたが、ビジネス基盤としての確立するために、業種別ソリューションを強化。2019年9月には製造業向けのソリューションとして「Manufacturing Cloud」の提供を開始し、製造業向けへの取り組みを強化している。
なぜ、SFDCは製造業向けの取り組みを強化しているのか、また、新たに投入した「Manufacturing Cloud」の特徴と今後の取り組みについてどう考えているのか。製造業として「Manufacturing Cloud」はどのような意味があるのか。2019年9月25〜26日に都内で開催された「Salesforce World Tour Tokyo」会場で、同製品を担当するSFDC 製造業・自動車業界担当バイスプレジデント&チーフソリューションズオフィサーであるアチュート・ジャジュー(Achyut Jajoo)氏と、同ソリューションのパイロットユーザーであるMipox 代表取締役社長の渡邉淳氏に話を聞いた。
MONOist SFDCといえば、CRMを中心とした部門別のソリューション展開が目立つ印象ですが、製造業向けソリューションをリリースしたのはどういう狙いなのでしょうか。
ジャジュー氏 SFDCの根本的な考えとして、顧客との接点が企業としての価値を生むということがあるが、この本質的なところは変わっていない。製造業などでもメーカーとしての独りよがりで製品開発を行ってしまう場合もある。そういう場合は、正しい顧客の情報を把握できていないということが要因として挙げられる。これらの顧客の姿が正しく把握できるような環境を作り出していきたいと考えている。
ただ、顧客を正しく理解することを考えた場合、業種などに応じた専門的な要素なども存在する。ビジネス基盤としての位置付けを目指すことを考えれば、業種ごとの特徴に沿ったものを用意していく必要がある。そういう意味で業種別のソリューションを強化している。製造業の他、金融、ヘルスケア、小売りなどの業種別の展開を進めてきた。
MONOist 多様な業種の要望に応えていくという方向性と、クラウドプラットフォームとしての方向性は、相反するように見えます。「多様性への対応」についてどう考えますか。
ジャジュー氏 基本的にはプラットフォームとしてのビジネスモデルを目指す。ただ、業種別でソリューション展開することを考えれば、多様な条件が生まれてくることは理解している。SFDCはプラットフォームの提供を行うが、柔軟性を持っているという点が特徴である。ユーザーやパートナーが自由にコンフィギュレーション(動作や構成を変更)できるようにしている。業務のうち、80〜90%がコンフィギュレーションを含めたプラットフォームとして提供できると考えている。
さらに、ユーザーコミュニティーである「Trailblazer Community」により、機能などについてのフィードバックを得て、機能拡張などを進めていく。こうした中で必要な機能、不必要な機能などを選別していく。
「Manufacturing Cloud」の開発においても、同じ製造業でも欧米企業と日本企業では求める機能が異なる。例えば、欧米企業は契約に厳密で契約ベースの情報が重要になるが、日本企業ではこうした契約関係が欧米に比べると緩く、契約情報だけでは測れない情報が生まれる。こうした違いなどをそれぞれに最適な形に合わせられるように開発を行った。
多くのITシステムが「業務をシステムに合わせる」ということを要求しているように見えているが、SFDCでは無理にシステムに合わせることを強制しないというのが特徴だ。業務に必要な情報はさまざまな業種や地域、環境などによって全て異なる。こうした多様性に寄り添える柔軟性を持つことが競合他社にない強みだと考えている。
MONOist 新たにリリースした「Manufacturing Cloud」の特徴はどういうところにあるでしょうか。
ジャジュー氏 「Manufacturing Cloud」は製造業の課題の1つであった、販売と製造の間の分断を解決する仕組みだ。製造業の中で販売部門が最も顧客に近い部門になるが、ここで得た顧客情報などを従来は十分に生かすことができない場合が多かった。不十分な顧客情報による予測を立ててしまい、販売機会の損失や、過剰在庫によるコスト上昇などに陥っていた。リアルタイムで顧客情報と各種経営情報を組み合わせて一元的に把握することで、正しい予測ができるようになり、業務間の無駄を削減することが可能となる。
さらに、ランレートビジネスに対応したことも特徴だ。従来SFDCは顧客ごとの商談ベースでの管理を行ってきたが、長期の契約において、過去の傾向から受注を決めるようなランレートビジネスには向いていなかった。これを改善しランレート契約を正しく示せるようにした。
ただ、これらの機能もこれで完成というわけではない。SFDCではクラウドベースでの年3回のバージョンアップが基本となっているが、「Manufacturing Cloud」も同様のサイクルで更新を図り、新機能などを追加していく。当面で考えているのは、ディストリビューターとの取引を併せて管理できるようにすることだ。製造業の収益性には、エンドユーザーだけでなくディストリビューターとの関係性が大きく関係している。まずはこれらの機能を付加していく。
MONOist 日本の製造業にどのような価値を提供したいと考えますか。
ジャジュー氏 日本の製造業の多くがグローバルに製品展開を行うグローバル企業である。その中でJust in Timeやすり合わせなどを生み出し、オペレーションの効率化を実現してきた。しかし、デジタル化が進む中で、製造業にはより正しく顧客を理解し、デマンドを理解し最適な製品や価値を提供することが求められている。こうした状況を、テクノロジープラットフォーマーとして支援し、より良いビジネスを生み出せるようにしていく。そういう役割を担っていきたいと考えている。
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