IQPを売却し、2018年3月にシリコンバレーで起業したのが、空飛ぶクルマを手掛けるNFTである。真紀氏は、NFTを起業した理由について「仕事場のある混雑した都心と郊外の自宅の間の移動で疲れ切っている現代人に、家族を大切にするための時間を生み出したいと考えた」と述べる。そのために必要なのが、完全自律制御で、高速に、ドアtoドアで仕事場と自宅の間を移動できる空飛ぶクルマというわけだ。
日本では空飛ぶクルマと呼ばれているモビリティは、海外ではeVTOL(電動垂直離着陸機)として捉えられている。NFTのASKAもeVTOLの1つになる。100社以上がこのeVTOL市場に参入しているが、そのほとんどは固定翼を持つ“ほぼ飛行機”を目指している。翼を持たないドローンタイプもあるが、どちらもヘリパッド間を移動するモビリティになる。自宅からヘリパッド、ヘリパッドから目的地までは、別途のライドシェアサービスなどを使うことが想定されている。これらのeVTOLは、多くの台数を受け入れ可能な巨大なヘリパッドを用意しなければならないことも課題だ。
NFTのASKAは、垂直離着陸に必要な翼を車両の上部に折り畳んだ状態でヘリパッドまで自動運転で走行する。ヘリパッドからは、翼を広げて離陸する。その後自律飛行してから目的地近くのヘリパッドに降下する。ヘリパッドで再度翼を折り畳んで目的地まで自動運転で走行する。つまり、他のeVTOLとは異なる、ドアtoドアの新たなモビリティになるというわけだ。
ASKAの外形寸法はSUVサイズであり、翼を折り畳めば一般道を走行できる。そして、20×20mのスペースがあればそこから垂直離陸で飛び立てるので、巨大なヘリパッドを用意する必要はない。着陸も同じく広いスペースは不要であり、自身で一般道を走行できるので別途の自動車を用意する必要はない。
現在開発中のASKAはレンジエクステンダー付きの電動車両で、飛行距離は240kmを想定している(将来的にはフル電動化を想定)。飛行高度は300〜3000m。垂直離着陸の機構にはダクトファンを使用しているので安全だ。また、eVTOLとしてのみならず、滑走路を活用するeSTOL(電動短距離離着陸機)としての機能も備える。この場合、使用するエネルギーをeVTOLの5分の1に削減できるので、240kmよりも飛行距離を伸ばせる。
ASKAのビジネスモデルは、機体の販売ではなくサブスクリプションによるサービス提供を想定している。「起業の理念に基づき、富裕層向けだけにならないよう価格を抑えたい」(真紀氏)と考えており、月額で450〜1000ドルを想定している。これは自動車を1カ月リースするのと同じくらいの金額だ。
真紀氏は「ASKAのようなアーバンエアモビリティの登場は100年に一度の大変革になる。米国や欧州でも規制緩和に向けた動きが加速しており、日本も関連省庁が動いている。NASA(米国航空宇宙局)も、2020年後半に開催する『UAMグランドチャレンジ』で、アーバンエアモビリティの開発を支援する方針だ」と説明する。
2020年後半にデモ機のテスト飛行を行う予定のASKAは、は2025年の市場導入を目指している。NFTでは、ASKAの自律飛行を実現するため、他の飛行体を検知して避けるシステム「センス&アボイド」の開発に注力している。同システムの事業化により、競合他社への納入も視野に入れる。また、離陸前にフライトルートなどを決めるATC(航空交通管制)との連携にもAI(人工知能)技術などを導入していきたい考えだ。「空の自律飛行は、通行者や標識はないので陸を走る自動車の自動運転よりも早く導入できる可能性がある」(真紀氏)。
最後に真紀氏は、WBO、IQP、NFTという3社の起業について「モチベーションは社会課題の解決とイノベーションを起こしたいという思いにある。だからこそ、今ある常識やメインストリームへの挑戦になることもある。否定されることも多いだろう。それでも失敗を恐れずに挑戦する気持ちを持つべきではないか。やらないことが失敗になる。トーマス・エジソンが『私たちの最大の弱点は諦めること。成功するのに最も確実な方法は、常にもう1回だけ試してみることだ』と言っている通り」と述べ、講演を締めくくった。
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