オンリーワンのモンスターネオ一眼、ニコン「P1000」はどうやって生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(13)(2/4 ページ)

» 2019年06月24日 10時00分 公開
[小寺信良MONOist]

スーパー高倍率に至る道のり

―― 以前、別のメディアでCOOLPIX P1000(以下、P1000)をレビューさせていただきました。そしてその能力にいたく感激したんですね。こういう商品が出来上がってきた背景をぜひお伺いしたいと思いまして。

 この商品は、いわゆるネオ一眼と呼ばれる製品分野だと思います。昨今のカメラ市場の中では目立たなくなってきていると思うんですが、ニコンの中でこのジャンルはどういう位置付けなんでしょうか。

増田武史氏(以下、増田) デジタルカメラにはレンズ交換式のものと一体型のものがあると思うんですけども、やっぱりレンズ交換式の方に業界全体が軸を移していっているという状況です。ニコンとしては、交換式ももちろんしっかりやっていく。そして、こちらのレンズ一体型の方は、ずっと焦点距離違いのものを充実させてきているところです。

 今スマートフォンが撮影の中心になってきているので、そことは対極をなすと言うか、完全に差別化できるところを特化していく1つの手段として、ズーム倍率とか焦点距離を追うというところなんですね。

―― ニコンにとって高倍率モデルとは、どのへんからを指すんでしょうか。

増田 これまでも12倍とか20倍、30倍とずっと倍率を伸ばしてきて、そこはニコンが重視している市場の一つなんです。今では30倍ぐらいまでは薄型スタイリッシュモデルで実現できています。

 ブリッジ(ネオ一眼)で大きな節目は、「P510」という機種ですね。40倍クラスでブリッジ型という、今につながる形にしていったので、多分このへんからなのかなと思います。

―― それが今では40倍どころではなく、光学だけで24mmから3000mm相当を1本でカバーするというのは、これまでの常識ではあり得ないと思うんですよ。そんなレンズが作れるなら、他社も最初からやってると思うんですけど。

増田 この機種を語る上で欠かせないのが、前身となる「P900」というモデルです。P900は光学ズーム83倍で2000mm相当まで到達したんですけれども、これなしではP1000は生まれていません。

左側にあるのが「P1000」。右側にあるのがP1000の前身となった「P900」 左側が「P1000」。右側にあるのがP1000の前身となった「P900」(クリックで拡大)

 P900は2015年に3月に発売したものなんですけれども、おかげさまで販売好調な商品となりました。ちょうどその半年後ぐらいから、次のモデルはどういうレンズにしようかという検討が始まっています。

 そこでP900を買っていただいたお客さまに、アンケート調査をしたんです。サイズが大きくなっても焦点距離を伸ばした方がいいという選択肢と、サイズが大きくなるなら焦点距離はそのままでいいという2つの質問を投げ掛けました。前者の方が後者に比べ1割ほど多い結果になりました。

 やっぱりサイズが大きくなっても焦点距離を伸ばす方がお客さまは喜んでいただけるのではないか、お客さまの声を拾ってくるとそういう方向になっていきました。

―― しかし、サイズを大きくすれば倍率が上がるってもんでもないと思うんですけれども。許容できる大きさの限度というのもありますよね。

増田 そこは一同悩んだところで、望遠側の倍率は3000mmですけど、f/8(解放F値:レンズの明るさを表す単位。数字が小さいほど明るいレンズということになる)なんですよね。一方、P900は、2000mmでf/6.5でした。2000mmでf/6.5っていうと、一般的には明るいレンズというイメージだと思うんですけれども、コンパクトデジタルカメラでf/8ってなかなか考えられない値です。それでもこのサイズ感と3000mmという焦点距離でご満足いただけるかどうか。

 光学的にはセンサーの感度や画像処理エンジンも良くなってきているので、f8でも普通に撮影できる環境が整ってきた。技術的にはそこがポイントになったのかなと思います。

望遠側3000mm相当までレンズを伸ばした状態 望遠側3000mm相当までレンズを伸ばした状態(クリックで拡大)

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