一方の「モニタリングフィードバック機能」も、造形精度の向上に効果を発揮するものだ。金属3Dプリンタで積層造形すると、レーザーで金属を溶かして造形するという仕組みであるため、レーザーの照射部は非常に高温になる。これが熱伝導し、想定と異なる部分が溶けるということが生じ、造形がうまくいかないケースが生まれる。「モニタリングフィードバック機能」では、レーザーによって造形している情報を温度センサーなどを含む複数種類のセンサーによってモニタリングし、その情報を基に、温度が上がり過ぎたり、下がり過ぎたりするのを自動的にフィードバック制御をかけて調整するという仕組みである。
3Dプリンタ関連の事業を推進する、三菱重工工作機械 技術本部副本部長 微細加工事業統括 二井谷春彦氏は「温度や画像などの単一の切り口でセンシングして、アルゴリズムを作っているわけではない。複数を組み合わせて最適な結果を導き出すことが独自技術となっている」とモニタリングフィードバック機能について説明する。
これらの機能は「LAMDA」のオプション機能として販売を進めていく方針だとしているが「既に受注があれば販売できるレベルで仕上がっている」(二井谷氏)という。また、これらの新機能と似たような技術はいくつも存在しているが「実装レベルで実際に使える形で示したのは世界でも最初だ」(二井谷氏)。
三菱重工工作機械では、これらの技術力を強みとして「まずは日本にも優れた技術があるということを知ってもらいたい」(岩崎氏)とし、2019年5月20〜23日に米国デトロイトで開催される先端立体造形技術の見本市「RAPID+TCT2019」にこれらの技術を出展する。
ただ、金属3Dプリンタは、価格が高額となる他、材質なども限定されるので、用途開拓が難しく、すぐに大きな量が売れる製品ではない。二井谷氏は「LAMDAはTRAFAMの研究成果が基になっている。TRAFAMでは高額な金属3Dプリンタの価格を下げるという目標があり、ターゲットとしていたのが5000万円だった。その価格は実現する。一方で、金属3Dプリンタが実際に使われるための環境作りが重要で、これらの働きかけに積極的に取り組んでいく。とにかく量産で金属3Dプリンタが使えるようになる環境作りを目指す」と語っている。
現状では、航空、宇宙、防衛などの領域で、チタン合金などの難加工材で使うケース、タービンなどの大型製品の補修造形で使うケース、自動車業界に向けてマルチマテリアルコーディングで使うケースなどが存在するが、さらに、大企業や大学、工業機関などの先行研究期間に積極的に提案を進め、金属3Dプリンタを使いこなすために必要な環境整備が進むようにしていくという。
二井谷氏は「金属3Dプリンタの普及には、個々の機器の技術的な課題も当然あるが、それ以上に環境の壁が大きい。1つは製品設計の壁だ。3Dプリンタは以前とは全く異なるモノづくりの方式で、それを生かすためには専用の設計が必要になる。しかし、その意識の壁を打ち破るのが難しい」と述べている。
そして、もう1つが規制や規格である。「いくらユーザーが金属3Dプリンタを使いたいといっても、その成果物が求める規格のものなのかなどが把握できなければ、発注を出すことができない。工作機械などはISOやJISなど、当てはまる規制や規格などが存在する。今は共通の基準がない状況で、これらを整備し、さまざまな企業が使えるようにしていくことが重要だ」と二井谷氏は語っている。
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