2020年代、日本では4K・8K放送が広く普及し、高解像度映像に対応した機器が安価になり、対応製品や対応コンテンツ、それらを利用したエンターテインメントにも高解像度映像技術が数多く利用されています。そして、あらゆるビジネス分野においても高解像度映像を活用した実証実験や検証が進められ、実用化されるでしょう。以下に、高解像度映像技術とインタラクティブ性を融合することで生み出される可能性のある市場を8つ挙げます。
日本で2010年代に数多く起きた地震や台風などの災害では、被災現場へ近づけず救出作業や復旧作業ができない状況を数多く見ました。現在、日本では次世代通信技術である5Gを使った建機の遠隔操作の実証実験が行われています。建機から取得する高解像度映像や音声をほぼリアルタイムで作業者に送信することで、実際の現場で操作しているように遠隔操作することが可能となります。
過疎地や離島などでは、診療所と患者自宅間を次世代通信でつないだ遠隔医療の実証実験が実施されています。これまでも遠隔医療の実証実験は実施されてきましたが、送受信する映像が不鮮明で的確な診断が難しいという課題がありました。次世代通信を使った高解像度映像技術とインタラクティブ性の実現によって、専門医による診療を遠隔で行うことが可能となり、2020年代には専門医による指示のもとでの手術や遠隔手術も技術的には可能となると考えられます。
非常に多くの人々が集まるハロウィーンやニューイヤーカウントダウン、ビッグスポーツイベントなどの警備では、道路封鎖や人海戦術だけでは対応できない状況が発生しています。2018年のハロウィーンでは、軽トラックを横転させる事件が発生し、各所に設置された監視・防犯カメラが犯人特定に役立ちました。また、AI技術を利用した犯罪予測予知システムが米国や中国で導入されたとのニュースもありました。
高解像度映像技術を使えば1つのカメラで広い範囲の情報を得られることから、監視・防犯システムの発展のための重要な技術になります。
自動車の自動運転の実証実験は、米国カリフォルニア州などで行われています。また、高解像度映像とインタラクティブ性を融合させることで、自動車を遠隔地から運転操作して、現場へ向かわせることも可能になります。
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)はアミューズメントパークなどで実用化されてはいますが、主にCG映像を利用したものでした。2018年に、リアルタイムの8K解像度映像を次世代通信で配信するVR(仮想現実)の実証実験が行われました。年に1度のお祭りや、簡単に行くことができない遠方の場所を臨場感のある映像で仮想体験できることが期待されます。
サッカーのビッグイベントでは、遠隔地のスタジアムの大型スクリーンや映画館を使ったパブリックビューイングが実施されていますが、昨今のeスポーツの普及によって、容易に高解像度映像を配信するサービスが増えると予想されます。例えば、スポーツバーやイベント会場などで大勢でリアルタイムに試合観戦し、熱狂と興奮を共有するエンターテインメントの場では、より迫力と没入感のある映像が求められます。また、旅行業界においても、観光地からの臨場感のある高解像度映像のリアルタイム配信は、旅行客の取り込みに効果を得られると期待されます。
高解像度映像は、教育面でも大きな影響を与えるといわれています。中でも、電子黒板システムは高解像度映像とインタラクティブ性の融合によって、遠隔地にいてもその場で講師が授業を行うのと同様な環境を実現でき、講師不足を補い、学力向上にも利用できるとされています。
現在のビデオゲームは、一部で4K解像度対応のゲームもリリースされていて、臨場感のあるゲーム空間を創り出しています。サッカーのような大きなフィールドを使用するビデオゲームの進化として、8K画面で選手一人一人を操作することが可能になることが考えられます。
このように、4K・8Kなどの高解像度映像技術とインタラクティブ性の組み合わせには、新しいビジネスやエンターテインメントを引き起こす大きな可能性があります。それによって世の中の仕組みも変革し、AI研究にも寄与して実用化につながるとでしょう。
このような新しい取り組みには、法律問題などの技術面以外の課題が出てくることも予想されますが、これまでに日本の企業や技術者が開発してきた技術やアイデアなどが生かされる技術革命になると信じています。
4K・8K高解像度映像とインタラクティブ性の融合は、日本の組み込みビジネスを長年支えてきた技術者と新世代の技術者が連携し、日本オリジナルの次世代につながる革命的技術になるのではないでしょうか。
H.264/AVC教科書(インプレス)
H.265/HEC教科書(インプレス)
4K、8K、スマートテレビのゆくえ(中央経済社インプレス)
高効率映像符号化技術 HEVC/H.265とその応用(インプレス)
人工知能は人間を超えるか(松尾豊著、角川EPUB選書)
高瀬 和弘(たかせ かずひろ)
国内大手IT企業研究所でのAI・マルチメディアの主任研究員を経て、その子会社の大手ゲーム会社で家庭用ゲーム機の開発ツールとゲーム制作の技術サポートの責任者、某ベンチャーIT企業でインターネットブラウザ周辺技術の開発責任者と海外支店の社長を歴任。
現在は富士ソフトに勤務し、これまでの経験と海外赴任経験を生かして海外の組み込み製品の拡充とFAE、契約交渉に従事中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.