テストベンチにおいて、従来のマップ制御を用いた場合、ドライブシミュレーターでアクセルを踏むにつれて騒音が大きくなった。リアルタイムな熱発生率を示すグラフは、当初の2つの山から波形が乱れ、グラフが双峰形に戻るまで時間がかかった。これは、理想的な燃焼に制御できなかったことを意味する。これに対し、RAICAによる制御では、アクセル操作の強弱に関係なく、熱発生率のグラフが双峰形の波形を維持した。
実際の走行も想定してこのように高度な燃焼技術を実現するには、理想的な燃焼を維持するための制御技術も不可欠だ。革新的燃焼技術のプログラムディレクターであるトヨタ自動車の杉山雅則氏は、「50%を超える正味最高熱効率の数値に対して、制御技術が直接的に貢献する状態にはなっていない。ただ、50%の熱効率が成立する燃焼をいかに広い領域で使うかと考えた時に、制御の力による底上げが遠くないうちに貢献できることに期待している」と述べた。
RAICAは、燃焼現象を物理から捉えて関数にした物理モデルと、適応制御やロバスト制御、AI(人工知能)を使った学習制御など、複数の高度制御理論を組み合わせている。走行中に、目標値の設定のための計算、大気圧や温度など自然環境や経年変化によるズレを補うための計算、走行状態の変化によるズレを補うための計算、吸排気ガスの最適化のための計算を行い、エンジンの動作を決定する。いずれもミリ秒〜秒単位の高速計算だという。
こうしたマップ制御とは異なる制御を実現することにより、走行条件や環境、経年劣化などに普遍的に対応するエンジン制御を実現する。
革新的燃焼技術のプログラムで制御グループリーダーを務める山崎氏は、「物理モデルを活用することで、ハードウェアとソフトウェアの対等な性能向上を実現する」と語った。これまで、制御開発は、燃焼設計とハードウェア開発の不足部分を補うという位置付けだった。しかし、この流れでは狙った性能を出し切れないという懸念がある。
これに対し、ハードウェアとソフトウェアの開発でコミュニケーションが取れるようなモデルを構築することにより、ハードウェアの課題をソフトウェアで解決できないか検討し、ソフトウェアで得られる限界を踏まえてハードウェアをさらに見直すといったサイクルを回せるようになるとしている。
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