ただし、これまでDBTを製品などに導入しようとすると、その製品のプロセッサでDBTを実装できるようにするための個別の技術開発が必要だった。今回発表したAiiRチップは、ハイシリコン(HiSilicon)のSoC「Kirin960」を搭載するルメーカー(LeMaker)の開発ボード「HiKey960」がベースになっており、Kirin960が採用しているArmの暗号化技術「TrustZone」を用いてDBTを実装してある。
一般的にAIチップというと、グーグルなどがAI専用に設計した「TPU」※)などのASICを指すことが多い。エイシングのAiiRチップは、市販の開発ボードのSoCに、TrustZoneで暗号化したDBTをソフトウェアとして実装したものなので、AIチップというよりは「AIモジュール」というのが正しいだろう。
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出澤氏は「開発したい製品にAiiRチップをポン付けしてもらえば、DBTのAIアルゴリズム開発を今までよりも早期に開始できる。開発期間としては、ヒアリングからPoC(概念実証)の完了までで2〜3カ月を想定している」と述べている。
エイシングの採用事例で代表的なのが、オムロンの「“超”現場型AI技術活用」だ※)。同社では、バッテリーの電極フィルムなどの生産に用いる巻線機で、材料のつなぎ目やばらつきに基づく蛇行による不良が発生していた。不良の発生時間は10秒、巻き取り速度は秒速2mなので、不良発生区間は20mとなり、それらは廃棄しなければならない。
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これに対して、制御周期125μsごとに数十ms先の影響を予測するDBTベースのAIを導入することにより、不良の発生時間を3秒に減らすことができたという。
またデンソーとは、同社が開発しているドローンにAI制御を導入し、急な横風がきても安定して飛行できるようにする取り組みを進めている。JR東日本とは、冬季に用いる散水消雪機の効率化やブレーキ点検作業の自動化などにDBTが採用されている。
エイシングは2019年、海外展開も強化する方針で、ドイツの自動車メーカーへの提案やシリコンバレーでの活動なども進めて行くとしている。
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