AIベンチャーのエイシングが、組み込み機器などのプロセッサでAIの推論実行だけでなく学習も行える独自技術「DBT」について説明。このDBTによるアプリケーション開発を容易に行えるAIモジュール「AiiR(エアー)チップ」を開発したと発表した。
AI(人工知能)ベンチャーのエイシングは2019年1月23日、東京都内で会見を開き、組み込み機器などのプロセッサでAIの推論実行だけでなく学習も行える同社の独自技術「DBT(Deep Binary Tree)」について説明するとともに、DBTによるアプリケーション開発を容易に行えるAIモジュール「AiiR(AI in Real time:エアー)チップ」を開発したと発表した。当面は、オムロンやデンソー、JR東日本に加え10数社の既存ユーザーや、政府系研究機関などに優先的にAiiRチップを提供し、DBTを用いたAIアプリケーションの開発を加速させたい考え。2019〜2020年にかけて、ザイリンクスのプログロマブルSoC「Zynq7000シリーズ」ベースのAiiRチップの投入を検討しており、それに併せて事業展開を拡大していく方針だ。
エイシングは、2000年代前半まで早稲田大学で機械制御とAIを学んだ、CEOの出澤純一氏とCTOの金天海氏が2016年12月に創業したベンチャー企業だ。金氏が岩手大学 電機システム工学科の准教授を兼任していることもあり、岩手大学発ベンチャーとしても知られている。出澤氏は「現在のAIベンチャーの多くは、AIを専門とする情報工学系研究室にルーツを持つことが多い。これに対して当社は、機械制御とAI、両分野の専門家である点で大きく異なる」と語る。
現在、AIとほぼ同義で語られることも多い深層学習(ディープラーニング)では、クラウドで学習を行い、エッジで推論を担うという役割分担をしていることが多い。これは深層学習の学習プロセスに、かなりの計算処理リソースが必要になるからだ。「このため、深層学習ではエッジで学習ができない。もし5G技術が普及して、クラウドで学習と推論を行ってエッジを制御しようとしても、通信のための遅延(レイテンシ)はある程度発生してしまう。また通信コストも課題になる」(出澤氏)。
これに対して、エイシングのDBTは、組み込み機器を念頭に作られたAIであり、エッジで学習と推論の両方を行えることが特徴になる。例えば、5米ドルで購入できる「Raspberry Pi Zero」にDBTを実装する場合でも、学習は50μ〜200μs、推論は1μ〜5μsで応答可能だとする。また、深層学習に必要なデータサイエンティストなどのAI専門家によるパラメータ調整が不要であり、深層学習では難しい追加学習も可能といったメリットもある。
出澤氏は「これだけ聞くと夢のようなAIかと思うかもしれない。しかしDBTは、機械制御を主な対象としており、入力種別数が100個程度と少ないので、学習データとして画像を扱うことが苦手だ。これに対して深層学習は、入力種別数が数百万と多く、画像認識に向いている」と説明する。
このDBTの際立った特徴を基に、機械やロボットなどの経年劣化の補正や、モーターなどの製品の個体差補正、性能がばらつくバッテリーの個体差補正、生体情報の個人差補正など「個体差補正」を得意領域として、事業展開を強化していく方針だ。「予測制御や複雑系、職人の勘の代替は、DBT以外のAI技術でも対応できる。個体差補正はDBTでなければ実現できないのでブルーオーシャンといえるだろう」(同氏)。
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